『めまい』あらすじ
同僚の転落死を目撃して以来、極度の高所恐怖症に悩まされるようになり、警察を辞職したスコティ(ジェームズ・スチュワート)。旧友の頼みで彼の妻マデリン(キム・ノヴァク)の監視を引きうけた彼だったが、自殺した曽祖母に操られるように奇妙な行動を重ねる彼女を、いつしか愛するようになる。しかし、マデリンは教会の鐘楼から衝動的に身を投げて自殺。失意で街をさまようスコティは、マデリンに生き写しの踊り子ジュディ(キム・ノヴァク)と出会い…。
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劇場公開時はそれほど評価されていなかった?
映画史にその名を深く刻むヒッチコックの代表作『めまい』(58)だが、公開当時はさほど興行的、批評的なうねりを獲得したわけではなかった。その年のアカデミー賞の結果を紐解いてみても、美術賞や録音賞ノミネートに留まるのみ。映画史100選などで必ずと言っていいほど選出される現在の扱いとは雲泥の差である。
確かに本作はこれまでのヒッチコック作品に比べると、畳み掛けるようなスピード感や緊張感は影を潜め、代わりに白昼夢のような怪しげな美しさが霧のように立ち込める。バーナード・ハーマンの幻想的な劇伴も相まって、このまま意識を委ねていると気づかぬうちにあちらの世界へ渡ってしまうのではないかと思えるほど。その意味では、他のどのヒッチコック作品よりも精神的な危険をはらんだ映画と言えるのかもしれない。
『めまい』予告
当初、ヒッチコックは『間違えられた男』(56)や『サイコ』(60)にも出演するヴェラ・マイルズをこの映画のヒロインに据えようとしていた。だが、ヒッチコックが胆のう手術を受けるなどして製作のタイミングがかなりずれ込み、その間、マイルズは妊娠を機にこの役を降板。代わりにキャスティングされたのがキム・ノヴァクだった。
一部では、ヒッチコックがノヴァクに対して冷たく接していたとの噂も聞かれる。そもそもヒッチコックは現場での議論やトラブルを好まず、できるだけ自分のペースを保ちながらストーリーボード通りにきっちり撮り上げたいタイプ。対するノヴァクは様々な質問やアイディアを携えて現場で投げかけてくることも多かったそうで、両者間に方法論をめぐって少なからず溝があったのは事実だろう。
『めまい』(C) 1958 Alfred Hitchcock Productions, Inc. and Paramount Pictures Corporation. Renewed 1986 Universal Studios for Taylor and Patricia Hitchcock O'Connell as Co-Trustees. All Rights Reserved.
だが結果的に、ノヴァクはそういうプレッシャーをはねのけ、作品の鍵となる“危うげな優雅さ”のようなものを見事に表現してみせた。彼女の残した存在感は、主演のジェームズ・スチュワートを凌ぐほどだったと言っても過言ではない。