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ヒッチコックの傑作『めまい』タイトルを象徴する伝説的ショットはいかにして撮られたのか?

(c)Photofest / Getty Images

ヒッチコックの傑作『めまい』タイトルを象徴する伝説的ショットはいかにして撮られたのか?

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原作とは異なる、サプライズの「ずらし」



 この映画の原作は、フランス人作家の書いたミステリー小説「死者の中から」。これを脚色する際に、ヒッチコックはストーリーの段取りに一捻り加えたという。結末に関わるのであまり詳しくは言えないが、もともとはサスペンスとサプライズがラストで同時に最高潮を迎えるという構成だったものの、彼はそこにタイミングの「ずらし」を仕込んだ。つまり、映画の後半早々にサプライズを炸裂させ、観客にさっさと真相を明かしてしまう。そうやって「主人公のジェームズ・スチュワートだけが事実を知らない」という特殊な状況を作り出したのだ。


 例によってヒッチコック映画の鑑賞時には欠かせない、教科書的な書籍「定本 映画術」(晶文社)を紐解くと、この時、関係者はみんなこの「ずらし」の脚色に反対だったと書かれている。誰もが「女性の正体がバレるのは、ラストじゃなきゃだめだ」と主張したのだとか。



『めまい』(C) 1958 Alfred Hitchcock Productions, Inc. and Paramount Pictures Corporation. Renewed 1986 Universal Studios for Taylor and Patricia Hitchcock O'Connell as Co-Trustees. All Rights Reserved.


 が、ここでヒッチコックは「自分が母の膝に抱かれて話を聞く小さな子供の身になって」考えを巡らせたそうだ。果たしてどちらの構成の方が、子供が「ねえママ!それからどうなったの!?」と尋ねるほどに興味を持続させることができるのか。今一度、純粋無垢な気持ちで考えてみた結果、このサプライズを最後まで引き延ばしたなら、後半の内容がすっかり面白みを欠いたものになる気がしたそうだ。


 そこで観客には真相を早々にバラし、むしろ「主人公がこれを知った時、一体どんな衝撃が起こるのだろう?」というハラハラドキドキの方へ焦点を絞り込む。そうすれば母に抱かれた子供も変わらず「それからどうなったの!?」と興味関心を持ち続けることができるだろう、と考えたのである。


 おそらくはこの決断なくして本作の今日の評価はなかっただろう。迷った時に決してテクニックに逃げ込むことなく、むしろもっとも純粋なところまで降りていって自分の気持ちと向き合い、何が最適かをシミュレーションする。それがヒッチコックのやり方なのだ。その結果、公開時のインパクトはそれほど大きくなかったにしても、やがて衝撃はジワジワと時間差で沁み渡り、地層のようにじっくりと人々の心に、そして映画史に本作の存在を刻んでいったのだ。



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