『三十九夜』あらすじ
カナダから帰国した外交官のハネイは、ロンドンの寄席でミスター・メモリーのショーを見ていた。その時突如銃声が起こり、謎の女に救いを求められ自室へ連れ帰るが、その女は何者かによって殺されてしまう。彼自身も逃亡を余儀なくされ、真犯人追及にわずかな手がかりを頼りにスコットランドへ列車で向かうが・・・。
Index
- イギリス時代の集大成とも言われる「巻き込まれ型」の金字塔
- スコットランド行き列車に飛び乗って、UK縦断の逃走劇へ
- 徹底的にディテールを描きこんだ高密度なタペストリー
- あの青春小説の名作にも『三十九夜』のことが詳述されている!?
イギリス時代の集大成とも言われる「巻き込まれ型」の金字塔
映画の神様アルフレッド・ヒッチコックは、祖国イギリスで成功を収めた後、ハリウッドに渡りさらなる世界的名声を手にした。それゆえ彼の遺した50本を超える作品は「イギリス時代」と「アメリカ時代」に大きく分けられ、それぞれにファンが多いことでも知られる。
今回ご紹介する『三十九夜』(35)は、その「イギリス時代」の最高峰にして集大成とも呼ばれる一作だ。BFI(イギリス映画協会)が1999年に実施した「20世紀のイギリス映画ベスト100」(*1)という調査ではなんと第4位に輝くほどだから(栄えある第1位はオーソン・ウェルズ主演の『c』だった)、本作が今なお広く、深く愛されていることが伺えよう。しかしこの日本ではどうか。実のところタイトルすら耳にしたことのない人がほとんどではないだろうか。
もしかするとこの邦題から、シェイクスピアの「十二夜」のような文芸作品的なイメージを受けている方もいるかもしれない。が、それは大きな誤解だ。原作はジョン・バカンが著した「三十九階段」。小説版の時点で既にハイクオリティな「巻き込まれ型」のスパイ物なのだが、映画版になるとさらにムチャクチャ面白い。序盤からその語り口に飲み込まれ、矢継ぎ早に折り重なっていく展開に翻弄されるうち、これがモノクロームのクラシック映画であることをすっかり忘れてしまうほどである。