あの青春小説の名作にも『三十九夜』のことが詳述されている!?
ちなみに、J・D・サリンジャーの小説「キャッチャー・イン・ザ・ライ」にも『三十九夜』が登場するのをご存知だろうか。主人公ホールデンの妹、赤毛のフィービーは登場人物のセリフを暗唱するほど本作のことが大好きで、とある印象的な場面になると決まって映像に合わせて自分の小指をヒョイと突き出してみせるのだとか。こういった描写が半ページに渡って続く(*5)。
生年月日から逆算すると、『三十九夜』がアメリカで初公開されたのは作者サリンジャーが16歳の頃となる。もしかすると彼は、公開当時、ホールデン少年とほぼ同じ年齢でこの映画を劇場鑑賞したのかもしれない————そう考えると、歴史に名を残す二つの名作が近しく、よりいっそう愛おしいものに思えてくる。
ともあれ、今やこの歴史的名作『三十九夜』は映画館やDVDでなくとも、一部の動画配信サービスで気軽に楽しめる時代となった。機会があればぜひ、最初の10分間だけでもいいから試しに視聴してみてほしい。フィービーがホールデンを連れ立って「この映画を10回観た」というのが頷けるほど、すっかりやみつきになってしまうこと請け合いだ。
*5) 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(ハードカバー版)P.114より
引用・参考文献
「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」フランソワ・トリュフォー/山田宏一・蓮實重彦訳/1990/晶文社
「ヒッチコック 映画自身」シドニー・ゴッドリーブ/鈴木圭介訳/1999/筑摩書房
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」J.D.サリンジャー/村上春樹訳/2003/白水社
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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