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ヒッチコック、イギリス時代の傑作スパイ・サスペンス『三十九夜』に織り込まれた高密度なドラマ性

(c)Photofest / Getty Images

ヒッチコック、イギリス時代の傑作スパイ・サスペンス『三十九夜』に織り込まれた高密度なドラマ性

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スコットランド行き列車に飛び乗って、UK縦断の逃走劇へ



 映画はミュージックホール(演芸場)のワンシーンからスタートする。観客が喝采を送る中、うやうやしく壇上に立つのは「ミスター・メモリー」と呼ばれる男。なんでも記憶し、聞かれたことはなんでも詳しく知識を披露してくれるパフォーマーだ。我々としては、彼のようなビックリ人間の登場がまさか後半へ繋がる重要な伏線だとは知るよしもない中、いつしかホール内では酔っ払いの乱闘が始まり、さらに一発の銃声をきっかけに観客はパニック状態へ突入していく。


 そんな中でふと出会った男女がいた。「追っ手から命を狙われている」と語るミステリアスな女性を、男は自宅に匿う。そこで明かされる、とある秘密。どうやら女は諜報員で、謎のスパイ組織「三十九階段」が政府の機密情報を流出させるのを食い止めようと、命がけで任務にあたっているらしい。


 が、翌朝目覚めると、彼女の背中には無残に突き立てられたナイフが。これは例の組織の仕業なのか? ならば、自分もここに留まっていては危ない。男はすかさず列車へ飛び乗り、彼女の握りしめていた地図を頼りにスコットランドを目指す。旅の過程では、組織のみならず、警察までもが「女性殺しの容疑者」として男を追いかけてくるだろう。世界遺産のフォース・ブリッジやハイランドの山々で息詰まる追跡劇が繰り広げられる中、果たして彼は真相へとたどり着き、自らの濡れ衣を晴らすことができるのか————!?



『三十九夜』(c)Photofest / Getty Images


 と、ここまでストーリーを俯瞰したところで、なんだか『北北西に進路を取れ』(59)と似た展開だなと思われた方は、なかなかの上級者とお見受けする。ヒッチコックとトリュフォーの対談形式によって綴られた名著「映画術」(*2)によると、『三十九夜』がイギリス時代の作品を集約したものとするなら、『北北西』はアメリカ時代の集約作という位置付けなのだとか。しかも前者がイギリスからスコットランドまでを縦断していくのに対し、後者はアメリカを横断していくという流れ。列車内にて運命のブロンド女性とめぐり合うくだりにも少なからぬ共通点が見て取れる。


*2) 「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」P.137、P.140より



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