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『ベネデッタ』最強の身体を手に入れるカリスマ修道女

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA

『ベネデッタ』最強の身体を手に入れるカリスマ修道女

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スペクタクルな劇場



 北イタリアの小さな村ペシア。村の子供たちがオナラに火をつける芸人の舞台を楽しんでいる。開巻早々に披露されるこのシーンは、ポール・ヴァーホーヴェンによる『ベネデッタ』(21)が、スペクタクルであり見世物小屋的な映画であることを短いシークエンスで示している。それより以前、少女時代のベネデッタの家族が出くわす、野蛮な盗賊たちの目に鳥の糞が落ちたときから、ヴァーホーヴェン的な「劇場」は始まっている。


 本作はJ.C.ブラウンの著書「ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア」を元に、同性愛の罪で裁判にかけられた17世紀に実在した修道女ベネデッタ・カルリーニを描いている。エロスと反逆と諧謔が渾然一体となって襲いかかるようなヴァーホーヴェンの演出は、この物語を真剣に受け止めるべきかどうかさえ、ときに迷わせる。ベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)が蛇に絡まれる幻想シーンのバカバカしさに笑い、威厳のないキリストの胡散臭さに苦笑いを浮かべ、ベネデッタの問答無用のカリスマ性に震え、有害すぎる家父長制に怒り、魔女であるかのように告発されたベネデッタとバルトロメア(ダフネ・パタキア)が育んだ物語に思いを馳せる。悲劇と喜劇が目まぐるしく反転する。そしてその境界はない。キリストの花嫁。ベネデッタは憧れのアイドルとの結婚を真剣に夢見るようなヒロインだ。このすべてを呑み込むような豪胆さこそが、ベネデッタというヒロインの最大の魅力であり、ヴァーホーヴェン映画の真骨頂といえる。



『ベネデッタ』(c) 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA


 レア・ミシウスの『ファイブ・デビルズ』(22)でも強烈な印象を残したパタキアは、本作のインタビューで好きな俳優について問われ、『こわれゆく女』(74)のジーナ・ローランズの名を挙げている。これは『ベネデッタ』という作品全体が、あの作品のジーナ・ローランズの過激なまでに流動的な感情と共振しているといえる。


 『ベネデッタ』はヴァーホーヴェンによる一流のスペクタクルを持って描かれていく。小さな村の修道院自体が劇場であるかのように。ベネデッタは、舞台に立つカリスマ俳優のようなオーラを纏っていく。


 「ベネデッタ・カルリーニが統合失調症を患っていたことは、本を読めば明らかです。しかし、私たちはそのようにキャラクターを見ないことにしました。何よりもベネデッタは”真の女優”だと思います」(ヴィルジニー・エフィラ)*1





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