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『青春弑恋』若者たちと都市の孤独、そしてエドワード・ヤンの痕跡

©2021 CHANGHE FILMS LTD.

『青春弑恋』若者たちと都市の孤独、そしてエドワード・ヤンの痕跡

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都市の孤独と『恐怖分子』



 ストーリーに踏み込むことなく本作を解剖するためのキーワードは、6人の登場人物たちが抱える「孤独」と「葛藤」だ。ユーファンと父親の間には奇妙な距離感があり、彼女を産んだ母親は自分が幼い頃に家を出ていった。それゆえだろう、ユーファンは「結局自分は捨てられる」との思いに苛まれている。ミンリャンの父親は裕福だが、彼もまた家族とはねじれた関係性にある。


 ポルノ配信の過去を持つモニカは、その事実を自分自身がうまく受け止められず、舞台女優としてもうまくいかず、かといって自分の生活レベルを下げることもできずに苦しんでいる。ミンリャンに恋をしているキキは、大人びてこそいるものの、性的行為にある種の恐怖を感じている。マッサージ屋のシャオには息子がいるが、ミンリャンから見た彼女の暮らしぶりといえば……。



『青春弑恋』©2021 CHANGHE FILMS LTD.


 本作と台湾ニューシネマ、ひいては『恐怖分子』との繋がりという点でも、この「孤独」というキーワードが最も大きいように思われる。80年代中盤、急速に経済成長が進み、中国による統治が終わりに向かう中で製作された『恐怖分子』もまた、都市の孤独を描く作品だった。カメラマンの男と恋人、賭場に出入りする不良少女と仲間、女流作家とその夫、刑事といった人々が入り乱れる中、いくつかの事件が起こり、最後には悲劇に突き進んでいく……。


 『恐怖分子』は3組のカップルを描いた群像劇であり、それぞれの関係がゆるやかに変化していく物語だ。言いかえれば、それは「築き上げられてきた関係性が壊れていく」ことへの、恐怖と孤独の物語だったのである。そこには台湾社会が劇的に変化する中、これまで普通に存在していたものが失われることへの不安が表れていたのかもしれない。


『恐怖分子』予告


 しかし『青春弑恋』は、現代の台北を生きる6人の若者たちが、なかなか繋がることができない物語だ。彼らの人生はどのように繋がるのか、むしろ繋がることは本当に可能なのか? 映画が転がり始めるきっかけが、恋人同士になったばかりのユーファンとシャオジャンの繋がりを“切断”せんとばかりに現れる通り魔=ミンリャンであることも象徴的だ。30年以上の時を超え、都市の孤独を形づくるものの違いが垣間見えてくる。


 ところで、本作について「(『恐怖分子』を)リメイクする気もなければ、観客に比較して欲しいと思ったこともない」と述べているウィディン監督だが、この映画に『恐怖分子』とのリンクがいくつも存在することは事実。不良少女からのいたずら電話、裕福な父親、現状から逃げ続ける女、合鍵で忍び込む“犯人”など……これらのすべてが本当に偶然なのか、あるいは意図をもって仕掛けられたイースターエッグなのかはわからないものの、ふたつの映画が確かに“繋がり合っている”こともまた確かなのである。


参考文献:『青春弑恋』プレス資料



取材・文:稲垣貴俊

ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。




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『青春弑恋』

3月24日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開

配給:2 ミーターテインメント(2MT)

©2021 CHANGHE FILMS LTD.

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