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『恋する惑星』恋愛映画の傑作が切り取る、90年代前半の香港に流れた空気
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期せずして生まれたオールタイム・ベスト
ポップ、そしてスタイリッシュなラブストーリー。ウォン・カーウァイ(王家衛)監督のフィルモグラフィーに燦然と輝く『恋する惑星』(94)は、公開から30年近くが経過してもなお愛され、新たなファンを増やしつづけている。「時が流れても古びない格好良さ」という言葉は、この作品のためにあるのかもしれない。
デビュー作『いますぐ抱きしめたい』(88)でいきなりカンヌ国際映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)にノミネートされたカーウァイは、『欲望の翼』(90)を経て『楽園の瑕』(94)の製作に入った。ところが、数々のスター俳優を起用した『楽園の瑕』は製作が難航。その完成を待たず、カーウァイは「もっと身軽に自由な感覚で映画を作りたい」との思いから本作の撮影に入ったのである。
『恋する惑星』予告
本人の意志にかかわらず、この映画は図らずもカーウァイの運命を変えることになった。香港公開翌年の1995年には、「香港アカデミー賞」とも言われる香港電影金像奨で作品賞など4部門を受賞。『レザボア・ドッグス』(92)『パルプ・フィクション』(94)で一世を風靡していたクエンティン・タランティーノが本作に熱狂し、アメリカで紹介したことから、カーウァイと『恋する惑星』の名前は世界中に轟くことになった。
映画監督ウォン・カーウァイを代表する“オールタイム・ベスト”である『恋する惑星』。この作品には、のちのカーウァイ作品に通じるテーマが早くも見え隠れしている。すなわち「時を流れても古びない格好良さ」の中には、90年代前半の香港の空気が濃厚に映し出されているのだ。本稿では、偶発的に生まれた、しかし緻密に作り込まれた映画の核心に接近してみたい。