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『青春弑恋』若者たちと都市の孤独、そしてエドワード・ヤンの痕跡

©2021 CHANGHE FILMS LTD.

『青春弑恋』若者たちと都市の孤独、そしてエドワード・ヤンの痕跡

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ポスト「台湾ニューシネマ」の挑戦



 本作のタイトルは『青春弑恋』だが、この映画にウィディン監督は『テロライザーズ(Terrorizers)』という英題を付けた。このタイトルは、冒頭に触れた台湾ニューシネマの旗手のひとり、エドワード・ヤン監督による名作『恐怖分子』(86)と同じもの。監督いわく「音の響きが素晴らしいのと、都市に住んでいて生活がオーバーラップする人たちの物語というのが重なる」との理由から英題に選んだという。


 もちろんこの映画は、『恐怖分子』のリメイクでも、ましてや続編でもない。2本の映画は独立した別の作品なのだ。しかし、わざわざこのタイトルを選ぶあたり、ウィディン監督の野心は明らかだろう。台湾ニューシネマへの目配せは、ひとつひとつのショットにこだわった美しい撮影と、それらひとつひとつにたっぷりと時間をかける編集のリズムによく表れている。監督自身も挙げた「都市」というキーワードは、時折挟み込まれる、うら寂しい街のショットに象徴されるところだ。



『青春弑恋』©2021 CHANGHE FILMS LTD.


 しかしながら、本作を台湾ニューシネマの文脈だけにとどめておくのはもったいない。全体をいくつかの章に分割した上で時系列をシャッフルし、時には同じシーンを反復しながら物語の全体像を明かしてゆく構成は、クエンティン・タランティーノ監督『パルプ・フィクション』(94)を彷彿とさせるほか、若者たちの恋愛がすれ違う様子などにはウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(94)や『花様年華』(00)の影響が見て取れる。90年代の作家性豊かな監督たちを、ウィディン監督が自分なりのやり方で再解釈したのが『青春弑恋』なのだとも言えるだろう。


 台北駅での通り魔事件を軸に展開する物語は、「なぜミンリャンは同居人を殺そうとしたのか?」という“ホワイダニット”の構造をもつミステリであり、6人の人間模様が絡み合っていく緊迫のサスペンスである。巧妙に伏線を回収し、思わぬ形でストーリーが繋がる瞬間にはきっと驚かされることだろう。したがって、本稿でストーリーを必要以上に明かすことは避けておきたい。


 ただし特筆すべきは、ウィディン監督が「私が最も惹かれるのは、悲劇の前とその後に起こる一連の瞬間なのです。それこそが人生に最も忠実であると思うからです」と述べていること。この映画は確かにミステリであり、サスペンスでもあるが、それ以前に“事件の前後”に人々の中で巻き起こる心理の物語でもあるのだ。駅で起こった通り魔事件は、あくまでもそれらが一気に噴き出してくるきっかけにすぎない。




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