リアルを超えた生き物のような演出
ただし、この映画は単にリアルなだけではない。例えば、本作で爆発の起こる直前には必ず扉の足元付近にちらりと煙が見え、それがヒュッと隙間から中へと吸い込まれていく。その様子は化学反応という以上に、まるで獲物を狙って忍び寄る獰猛な肉食獣のようだ。
そう、映画『バックドラフト』が恐ろしいのは、炎や煙がまるで意志を持ったひとつのキャラクターのように思えてくるところ。過去の『タワーリング・インフェルノ』(74)のようなパニックムービーとは異なり、むしろ倒しても倒してもなお牙を剥いて襲いかかってくる『ジョーズ』(75)のような斬新な演出意図がそこにはあった。
この擬人化においては、ロバート・デ・ニーロ演じる火災調査官が口にする「炎は生きている。息をするし、物を食らったり、相手を憎んだりもする。奴を倒す唯一の方法、それは、奴と同じように思考することだ」という強烈なセリフも一役買っているのは明らかだ。
『バックドラフト』(c)Photofest / Getty Images
複雑に入り組んだミステリーにも注目
複雑に入り組んだ人間ドラマやサスペンスも本作の隠れた見せ場だ。主人公(ウィリアム・ボールドウィン)はやがて、カート・ラッセル演じる兄が所属する消火チームから異動し、デ・ニーロのもとで火災調査官として出火原因を探る役目を担うことに。これが一連の「仕掛けられたバックドラフト」の謎を解明するきっかけとなっていく。
ここで特異なのは、本作に多彩な「悪役」が登場する点だろう。まずはバックドラフト 現象を用いて復讐を企てる犯人がいて、陰で悪事を働く行政側の役人がいて、さらには塀の向こう側には伝説的な放火魔ロナルド・バーテル(ドナルド・サザーランド)の存在がある。
デ・ニーロとボールドウィンは一連の事件の手がかりを得ようと、収監されたバーテルのもとを訪れ、彼はヒントを与える見返りに、相手のトラウマを聞き出そうとする……ん?この展開、どこかで聞き覚えがあるような…。
Entertainment Weeklyの記事(*1)で紹介されている脚本家グレゴリー・ワイデンの言葉によると、『羊たちの沈黙』(91)などで知られるハンニバル・レクター博士と重なるかのようなバーテルのキャラクターについては「偶然の一致に過ぎない」とのことだが、さてあなたはどう感じるだろうか?
*1 参照)https://ew.com/article/1991/06/07/backdraft-and-silence-lambs/