『バックドラフト』あらすじ
殉職した父の後を継いで消防士になる決心をしてシカゴに戻ってきたブライアンは、兄スティーブンが隊長を務める第17分隊に配属される。二人は徹底的に反目し合う。おりしもシカゴでは奇妙な放火事件が続発。それは「バックドラフト」と呼ばれる逆気流現象を伴う凄まじい爆発火災だった。
『バックドラフト 』と聞くと、ハンス・ジマーが手掛けた勇壮な音楽の響きがありありと耳に蘇ってくる。多くの日本人にとってはむしろTV番組「料理の鉄人」(93~99)のオープニング曲としての認知度の方が高いかもしれないがーーー。
今から30年以上前、初めて『バックドラフト』を観たときの衝撃は凄まじいものだった。単なる火災映画とはワケが違う。そこでは炎が容赦なく消防士たちの身に襲いかかり、さらに戦場のように爆発を巻き起こしもした。当時中学生だった筆者の脳内には、劇中で繰り返された「扉を開ける/爆発する」という一連の描写がすっかりと刷り込まれ、上映後、劇場の重い防音扉を押し開くことさえ躊躇してしまうほどだった。
『バックドラフト』予告
このタイトルの「バックドラフト」とは、密室における火災で酸素が不足して一時的に下火となり、その後、急激に外気が入り込むことで引き起こされる爆発的燃焼のこと。脚本家グレゴリー・ワイデンは実際に3年ほど消防士として勤務したことがあり、そこでの過酷な体験が本作のベースになっているらしい。
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本物の炎がもたらした迫真の臨場感
本作で驚かされるのは何と言っても火災現場の臨場感だ。これらは30年以上たった今、改めて見直してもまったく遜色がない。
本作が公開された1991年というと、『ジュラシック・パーク』(93)が従来の”特殊効果”の意味合いを根底から覆してしまう直前。まだCGの時代は始まっておらず、だからこそ本作に登場する炎は、ほぼ全てが嘘偽りのない「本物」なのだ。
それゆえ特殊効果チームはまず火の習性を研究し、それをいかなる映像表現へと高められるかを徹底して検証していった。
その上で、撮影セットが燃え尽きると撮り直しが効かなくなるので、最初からあらゆる箇所に防火用の塗料を塗りつけて、繰り返し火にさらされても撮影に耐えうるような耐久性の高いセットを作り上げた。また、点火後はガスの噴出量を調整するなどして炎のサイズ感やon/offを自在にコントロールできるようにした。
『バックドラフト』(c)Photofest / Getty Images
出演者達も消防士役を演じるにあたって専門的な訓練を受けて、火の知識から消火活動のノウハウまで、しっかりと叩き込まれた。その成果と言うべきか、カート・ラッセルやスコット・グレンらは可能な限り自らの体で危険なスタントをこなすなど、まさに消防士になりきったかのような覚悟でこの映画に身を捧げている。
70年代、80年代風の「二重写し」でもなければ、90年代から現代に至るまで続くCGでもない。まさに激変していく時代の狭間だからこそなしえた奇跡。その意味では『バックドラフト』級の本物感に満ちた炎の映画は、後にも先にも、もう二度と製作されることはないのかもしれない。