(C)Possible Films, LLC.
『ネッド・ライフル』家族の物語、ついに完結。クラウドファンディングがもたらした最終章は、ユーモラスな中にギリシア悲劇的な香りが際立つ
ハートリー組に新たな呼吸を吹き込んだ逸材女優、オーブリー
話を戻そう。ハートリーはこの「息子が父を探し出して復讐する」という基本軸を築きつつも、さらにもう一つ「何か」の要素を加えたいと感じていたという。そこで原点に立ち戻るべく第一作目『ヘンリー・フール』を見直していた際に、主人公が口にした“あるセリフ”を受け、「これだ!」と確信。詳細は映画の鍵となるので伏せておくが、こうして今回のキーパーソンでもある一人の女性の降臨が決定する訳である。
だが、厄介なのはキャスティングだ。この女性役に相応しい女優は見つかるのだろうか。ハートリーは付き合いのあったエージェントにこの役にハマりそうな女優候補をリストアップしてもらい、そこに含まれていた一人がオーブリー・プラザだったという。
『ネッド・ライフル』(C)Possible Films, LLC.
数々のコメディ作品で強烈な、瞳孔開きっぱなしのぶっ飛んだ演技を披露し、一度見るとちょっとやそっとでは忘れられない存在感を残す彼女。しかし当のハートリーはオーブリーのことを全く知らなかった。そこで自分への宿題として彼女が出演するTVシリーズ「パークス・アンド・レクリエーション」やその他の出演映画を集中的に観てみたそうだが、最終的に「 彼女はパートタイムトラベラー」(原題は”Safety Not Guaranteed”)がきっかけとなり、彼女へのオファーを決心したという。
この「パートタイムトラベラー」と言えば、世界で大絶賛されながらも日本ではなぜかDVDスルー扱いを受けている不遇の作品である。監督を務めたコリン・トレヴォロウもまた、この映画によって『 ジュラシック・ワールド』の監督、脚本に抜擢されるきっかけを掴んだと言われている。彼らの運命を変えるのみならず、まさかそれを観たハートリーにも影響を与えていたとは驚きだ。
また、当のオーブリーは、蓋を開けてみるとハル・ハートリーのファンでもあり、『ヘンリー・フール』も鑑賞済み。オファーを受けて、脚本も読まないうちに出演を即決したそうだ。彼女の存在感は本作でかなり際立っているし、通常であればヘンリーやネッドといったおなじみの俳優に振り回されて影が薄くなりがちなところを、強烈な個性を発動させて彼らを食わんばかりに圧倒してみせる。それでいて初出演にしては驚くほどハートリー・ワールドの波長とあっている。まさに彼女との出会いがなければ本作は成立していなかったとさえ言えるだろう。
運命は続く?それとも断ち切れるのか?
かくもミステリアスかつ魅力的な要素を融合させながら、ひた走って行く最終章。オーブリー演じる女性は何者なのか。そしてヘンリー、フェイ、ネッドという3人の家族の物語にはいかなる終止符が打たれるのか。
映画を見終わってふと思った。もしもこのトリロジーが、永久にループする物語だとしたら?いつの日か、青年から中年へと成長したネッドが、ふらりと町へ現れる。両手にはぎっしりとノートの詰まったバッグを抱え、煙草をプカプカと吸い、口数少ない男にあれこれ文学指南を始め・・・つい、そんな想像を膨らませてしまうのも、ハートリーがもたらした余韻の深さゆえ。
これは彼らの旅の終わりであるとともに、長年連れ添った観客の旅の終わりでもある。さて、あなたはこの終着地でいったい何を思うだろう。
参考)
https://www.slantmagazine.com/features/article/interview-hal-hartley
http://screenanarchy.com/2015/04/interview-hal-hartley-and-aubrey-plaza-talk-ned-rifle.html
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
「ヘンリー・フール・トリロジー」
5月26日(土)アップリンク渋谷にて二週間限定上映
※同特集にて『トラスト・ミー』(1990)も特別上映
配給:Possible Films
公式サイト: http://halhartley.com
(C)Possible Films, LLC.