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『バービー』狂騒的な矛盾を生きる、内なる少女の歩み方

©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『バービー』狂騒的な矛盾を生きる、内なる少女の歩み方

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内なる少女との歩み



 初期のバービードールにはドールの職業に合わせたストーリー本が付いていたという。その本には昇給の方法や、旅行ガイド、ダイエットの方法まで書いてあるものもあったという。しかしドールが子供、あるいは大人に渡った時点で、それぞれの個人の物語は自由に形作られていくものだ。


 グレタ・ガーウィグは、バービードールに懐疑的な母親の元で育った。最初に手に入れたバービードールで物語を作り、一人で遊んでいた思い出があるという。グレタ・ガーウィグにとって『バービー』を制作することは、子供時代に一人で遊んでいた状態に戻るための手段だったのだろう。グレタ・ガーウィグは自身の制作するすべての作品の創作を、自身の少女時代と結び付けている。


 内なる少女の発見。『バービー』に不意に訪れるほんの少しの静寂の瞬間がたまらなく好きだ。リアルワールドでベンチに腰掛ける老婆と話すバービー。おそらく生まれて初めて年老いた女性を見たバービーの反応は、どこまでもやさしい。かつて少女だった老婆の自尊心の高さに、バービーは静かに感銘を受けているように見える。



『バービー』©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.


 グレタ・ガーウィグがここまでメッセージ性をくっきりさせた映画を撮ったことには、おそらく大きな意図がある。マーゴット・ロビーも、きっと同じ思いだろう。彼女は語る、バービードールへの賞賛だけでなく批判を取り込みながら、しかしマテル社が認めないような作品にはしたくなかったと。『バービー』は大人の女性、男性だけでなく、いまこの世界を生きる子供たちの将来に望みを託しているように思える。子供時代に自分がなりたいと思っていた大人の姿が、本当のあなたなのだと。その自己認識を大人になっても忘れないでほしいと。


 最後に筆者の好きなグレタ・ガーウィグの言葉を紹介したい。狂騒的な大作『バービー』においても、グレタ・ガーウィグはなりたい自分になることの矛盾と戦っている。


「私たちは道を歩く時、いつも小さかった頃の自分と一緒に歩いている。私たちはいつも、自分たちがなりたかった自分を今の自分に融合させている」(グレタ・ガーウィグ)*4


*1 [People Special Edition "Barbie"]

*2  Film Comment[Greta Gerwig on Barbie]

*3 Vogue[Barbiemania! Margot Robbie Opens Up About the Movie Everyone’s Waiting For ]

*4 「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」プレス



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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