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『国葬の日』その日の日常をフラットに描いたことで現れた、「怖さ」の正体

(C)「国葬の日」製作委員会

『国葬の日』その日の日常をフラットに描いたことで現れた、「怖さ」の正体

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豊かな暗喩によって獲得した「怖さ」



 筆者が本作で激しくひきつけられたのは、人々が作る「列」の映像だった。パチンコ店に並ぶ人々、修学旅行なのか教師の指示通り整然と並ぶ子どもたち、辺野古の基地建設のために車列をなす大型トラック。そして安倍元首相への献花に何時間も列をなす人々。作中に頻出するこうした「列」のイメージは、否応なく日本人の個の埋没や、権力に無批判な従順性を想起させる。


 そんな筆者の指摘に大島は「そこまでは意図していなかった」と応えたが、彼が狙ったフラットな目線の取材と日常へのこだわりが、多様な解釈を促す余地を作り、観客が抱くイメージを豊かにしたことは明らかだ。



『国葬の日』(C)「国葬の日」製作委員会


 そんな本作を象徴する最も重要なカットは、冒頭とラストに配された渋谷スクランブル交差点の「日常」だろう。世界でも有数の交通量と言われる渋谷スクランブル交差点。映画のラスト、そこを行き交う人々の映像に、日本の総人口が唐突にテロップされる。その意味は説明されないが、言いたいことは明らかだ。「結局国葬による分断はなく、それどころか多くは国葬に興味すらなかった…。一体日本人とは何のか?」と。それは、大島が掲げた「日本人のグラデーションを描く」という目論見が崩れ去ったことに対する正直な告白にも見える。


 筆者はスクランブル交差点のカットに、立ち尽くす大島新の姿を幻視する。彼は行き交う人の波を呆然と見送りながら、「日本人の無関心」という漆黒の穴をのぞき込んでいるのだ。絶望ととともに得体のしれない深淵をのぞき込む男の姿はこの上なく薄ら寒い。


 本作の成功は監督の企みとその挫折の告白にある。その構造にこそ、類まれなる「怖さ」の源泉があり、観客の心に拭いきれない傷痕を残すのだ。



文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)



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『国葬の日』

9月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

配給:東風

(C)「国葬の日」製作委員会

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