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『ラブ・アクチュアリー』ジョニ・ミッチェルの名曲”Both Sides Now”(青春の光と影)がもたらしたもの

(c)Photofest / Getty Images

『ラブ・アクチュアリー』ジョニ・ミッチェルの名曲”Both Sides Now”(青春の光と影)がもたらしたもの

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30年の月日を経た名曲”Both Sides Now”



 この曲が初めてリリースされたのはジョニが25歳の頃(1969年)。この歳で人生や愛をテーマにした極めて深いテーマの曲を奏でていたわけだから彼女は早熟な女性であったとも言える。


 その後、約30年を経て2000年に発表されたこの楽曲は、ギター一本の弾き語りだったものが深遠なる響きを持ったオーケストラ・バージョン、それも胸が締め付けられそうなほどスローな曲調へと変化している。その歌声には年月を重ねた厚みや力強さがあり、かつてと同じ人生や愛について歌っていたとしても、それらは25歳の頃から何度も周期を経て、形、輝き、心の震えを大きく深化させているように感じられる。


 リチャード・カーティス監督はこの曲を、人生の試練にさらされるエマ・トンプソンの相貌にそっと寄り添わせる。人生の折り返し地点に差し掛かったこのキャラクターの、心の奥底にある感情をナチュラルに表現してくれる楽曲として、これに勝る選択肢は他になかっただろう。


『ラブ・アクチュアリー』Joni Mitchell - Both Sides Now 


 この曲がもたらしたものは他にもある。そもそも本作にはティーン・エージャーから新婚ホヤホヤのカップル、さらには40代、50代に至るまで様々な年代が入り乱れているわけが、30年を経て歌い継がれるこの曲は、結果的にそのすべての登場人物の過去、現在、そして未来までを全て俯瞰して照らしているようでもあり、このエマ・トンプソンが登場するシーンのみならず、まさに作品全体の芯部を成す存在となりえているのである。


 賑やかなところは晴天の青空のようにカラッと賑やかに。一方、心をギュッと締め付けるシーンはこのようにしっとりと。そんな人生のあらゆる側面を照らす本作のテーマ性とも相まって、”Both Sides Now”は、喜びや悲しみ、楽しさや怒りといったその場限りの感情を超えた、何か今の自分をもっと遠くから見つめるような視点をもたらしてくれる。


 まさに映画のために楽曲を使用したという以上に、楽曲が映画をかくも深みのある境地へ連れて行ってくれた感覚。間違いなく本作の核心の一つであり、もしもリチャード・カーティス監督が脚本執筆前にこの曲と出逢っていなかったら、これほど運命的なまでに聴き続けていなかったなら、この大ヒット映画が世に生まれおちることもなかったと言えるのかもしれない。



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