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『恋しくて』ザ・ローリング・ストーンズに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、本作をめぐる奇妙な縁

(c)Photofest / Getty Images

『恋しくて』ザ・ローリング・ストーンズに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、本作をめぐる奇妙な縁

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アマンダ役がリー・トンプソンになるまで



 企画当初、『恋しくて』はマーサ・クーリッジが監督する予定だった。ワッツ役とキース役は現状のままだったが、ジョン・ヒューズはアマンダ役にモリー・リングウォルドを希望していたという経緯がある。それは、彼の“果たせなかった想い”を、『恋しくて』で再挑戦しようとしていたからでもあった。『すてきな片想い』(84)、『ブレックファスト・クラブ』、『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』で組んできたモリーは人気絶頂期。当時、同じような役柄ばかりオファーされることに危惧していた彼女は、アマンダ役を断ってしまったのだ。


 『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』では、アンドリュー・マッカーシーが演じた校内の人気者とモリーが結ばれるというシンデレラストーリーになっていた。しかし、当初の脚本ではジョン・クライヤー演じる幼馴染の方と結ばれる結末になっていたのである。実は試写の反応がイマイチだったこともあり、映画会社の要請でラストを変更させられたという苦い思い出があったのだ。


 そこで、ヒューズは男女の設定を入れ替えることで、ワッツとキースが結ばれるという物語を『恋しくて』で実践しようとしていたのだ。その後、アマンダ役をキム・デラニーが演じることになったものの、今度はマーサ・クーリッジが監督を降板。ヒューズが再びハワード・ドゥイッチに監督を依頼したことで、今度はキム・デラニーも降板。めぐりめぐって、リー・トンプソンがアマンダ役を引き受けることになったのである。



『恋しくて』(c)Photofest / Getty Images


 その後の話をしよう。リー・トンプソンは『恋しくて』の縁をきっかけに、ハワード・ドゥイッチ監督と1989年に結婚。アマンダ役を切望していたのは、実はドイッチ監督の方だった。ドゥイッチ監督はジョン・ヒューズの脚本に対して「ヒューズは青春時代が複雑であることを認識している。その時代における様々な悩みの解決方法を彼は常に探し求めている。そこにはいくつものバリエーションがあって、そのつくり方を心得ている。若者と真剣に向き合うからこそ、若者たちも彼を慕うのだと思う」と述懐。その影響は、日本のある映画にも受け継がれている。


 『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(14)が劇場公開された際、犬童一心監督は「ジョン・ヒューズ作品のような瑞々しい青春映画を撮りたくてこの作品を作った」と述懐。漫画家志望の書店員(相葉雅紀)=画家志望キース(エリック・ストルツ)が、彼を密かに思い続ける幼馴染み(榮倉奈々)=幼馴染のワッツ(メアリー・スチュアート・マスターソン)の気持ちに気付かず、美女(ハン・ヒョジュ)=アマンダ(リー・トンプソン)に惹かれるという物語はまるで『恋しくて』のようではあるまいか。


【出典】

・『恋しくて』  劇場パンフレット

・『プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角 デジタルリマスター版』 Blu-ray 映像特典

・John Hughes:A Life in Film The Genius Behind Ferris Buller, The Breakfast Club, Home Alone, and more」 Kirk Honeycutt (Race Point Publishing)

・The Atlantic 「Molly Ringwald’s Revealing Interview on John Hughes, Not Being Lindsay Lohan.and More」 



文:松崎健夫

映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。



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