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『夕陽のガンマン』「ドル3部作」で最も過小評価されている傑作西部劇

(c)Photofest / Getty Images

『夕陽のガンマン』「ドル3部作」で最も過小評価されている傑作西部劇

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俳優を引退していたリー・ヴァン・クリーフの起用



 『荒野の用心棒』の“名無しの男”に抜擢されたクリント・イーストウッドが、セルジオ・レオーネのファーストチョイスでなかったことはよく知られている。当初検討されていたのは、名優ヘンリー・フォンダ。善良なアメリカ人を演じ続けてきた彼に、それまでとは真逆のキャラクターを割り当てることで、「観客に新鮮な驚きを与えられるだろう」と考えたのだ。レオーネにとって彼は、スクリーンでその勇姿を目に焼き付けてきたスター俳優でもあった。


 だがエージェントは、送られてきた脚本を本人に見せることもなく「NO」を突きつける。最愛のスターに振られてしまったレオーネは、すっかり意気消沈。代わりにオファーしたチャールズ・ブロンソンにもすげなく断られ、ジェームズ・コバーンとは出演料で折り合いがつかず、めぐりめぐってイーストウッドが主演することになる。


 セルジオ・レオーネにとって、ヘンリー・フォンダはよほど特別な存在だったのだろう。今度は『夕陽のガンマン』のもう一人の主役、ダグラス・モーティマー大佐役をオファーする。『荒野の用心棒』の主人公クリント・イーストウッドと、幻の主人公ヘンリー・フォンダの共演。考えただけでワクワクするキャスティングだ。だがエージェントからの返事はまたも「NO」。前回に引き続きチャールズ・ブロンソンにも打診するが、彼は再び出演を拒否。…って、『荒野の用心棒』のときと全く同じ流れではないか!



『夕陽のガンマン』(c)Photofest / Getty Images


 ジョン・フォード監督の『リバティ・バランスを射った男』(62)や『ドノバン珊瑚礁』(63)で頭角を現していたリー・マーヴィンが、モーティマー大佐を演じることで了承を得たものの、撮影直前になって別の映画に出演契約していたことを知らされる非常事態に。セルジオ・レオーネは、残り数日で代役を探す羽目に陥った。ぱらぱらと俳優名鑑をめくっていたとき、彼の目に飛び込んできたのが、リー・ヴァン・クリーフ。ヴァン・ゴッホのような鋭い眼光に、レオーネは射抜かれた。モーティマー大佐を演じられるのは、この男しかいない!


 ひとつ大きな問題があった。リー・ヴァン・クリーフは、1959年に自動車事故を起こしたことがきっかけで俳優業を引退し、画家として第二の人生を歩み出していたのだ。痛めた膝の影響で、激しいアクションはおろか全力疾走もできない。だが、セルジオ・レオーネは頓着しなかった。ロサンゼルスのホテルで初会合するやいなや出演を取り付け、6年間ブランクのあった男を再び映画の世界に舞い戻らせたのである。


 リー・ヴァン・クリーフにとっても、この申し出は青天の霹靂だったことだろう。電話料金が払えないくらいに困窮した生活を送っていた彼のもとに、突然『荒野の用心棒』で名を馳せたイタリア人監督が現れ、イーストウッドと並ぶ主役の座を約束し、これまでに受け取ってきた俳優のギャランティーよりも高い出演料を提示したのだから。


 「ドル3部作」の最終作『続・夕陽のガンマン』にも起用されたリー・ヴァン・クリーフは、一躍マカロニ・ウエスタンのスターに。『新・夕陽のガンマン/復讐の旅』(67)、『怒りの荒野』(67)、『エル・コンドル』(70)など西部劇を中心に活躍し、俳優として華麗なるカムバックを果たすことになる。




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