2017.08.21
傑作やジャンルへの愛情を、包み隠さず発露する純粋さ
このように『ベイビー・ドライバー』には、映画に関する愛情と知識を併せ持つライト監督らしいこだわりが満載だ。ちなみに彼は『ザ・ドライバー』への愛が高じて、映画のクライマックスにウォルター・ヒル監督を“声のみの出演”でカメオ登場させている(事前に知らなければ絶対にわからないレベルの起用だ)。さらに、ちょっとした場面に映し出される数字の羅列が実は『ザ・ドライバー』の米公開日を意味しているなど(これもほとんど気づかないレベル)、この映画への愛情を観客へ目配せすることに躊躇がない。
この世に完全なるオリジナルな映画など何一つ存在しない。あらゆる監督は幼い頃から何かしらの形で映画に魅了され、その感動や衝撃を血肉化して、まずは習作として真似たりしながら自分の方法論を見つけ出していくもの。その影響を隠したがる映画監督も一方にはいるが、ライトはその真逆で「こんな面白い映画があるんだぜ!」と自らどんどんアピールするタイプ。だからこそ彼の作品を観ると扉が開け放されたみたいな清々しい空気を感じる。ひとつの扉を開けると、その向こうにはたくさんの、古くて重厚、かつクールな扉が数多く待ち構えており、そこから世界が無限に広がっていく。それもまたライト作品を味わう上での醍醐味と言えるのだ。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
2017年8月19日(土)公開
※2017年8月記事掲載時の情報です。