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カーアクションとミュージカルがまさかの融合!画期的なアイデアに刻まれた、80年代音楽映画の影響とは!?『ベイビー・ドライバー』

カーアクションとミュージカルがまさかの融合!画期的なアイデアに刻まれた、80年代音楽映画の影響とは!?『ベイビー・ドライバー』

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音楽とアクションが同期する新感覚ミュージカル


 誰もがその男をBabyと呼ぶ。その理由は彼が年端のいかない青年だからか。詳しいところはわからない。本名も定かではない。そんな彼はDoc(ケビン・スペイシー)が取り仕切る強盗チームの運転担当だ。彼の役割は犯行を終えたばかりのメンバーを逃すこと。今日もまた追いかけてくる無数のパトカーから逃れるべく、Babyの驚異的なドライビング・テクニックが炸裂する。きっかけとなるのはiPodから流れる音楽。このリズムとメロディに全ての動きをユニゾンさせることで、車が舞うように道路を滑走し、小刻みにステップを効かせながらあらゆる状況を味方につけることができるのだ――――。

 かくも音楽に乗せて動きが同調するという、まるでカーアクション版『ラ・ラ・ランド』のごとき映画。それがエドガー・ライト監督作『ベイビー・ドライバー』である。人は往々にして、音楽に合わせて登場人物が歌ったり踊ったりするものを“ミュージカル”と呼ぶが、実際にはその明確な定義なんてどこにも存在しない。そこに音楽があって、それに合わせて体が、車が、リズミカルに躍動するのであれば、それもまた立派なミュージカル。これはカーアクションと音楽が融合した、常識を覆すミュージカル映画なのである。

 アクションだけではない。オープニングのタイトルバックではBabyが生身の身体で人数分のコーヒーをテイクアウトするというシーンがワンテイクの長回しで描かれる。ここもまた、主人公が音階を巧みにアップダウンするかのような軽妙さに満ちていて、必見のシーン。エドガー・ライト監督とその一味はこの撮影で実に30回近くもテイクを重ねたらしいが、そのことが十分にうかがえる非常に楽しい場面に仕上がっている。

着想から20年以上。ようやく実った渾身のアイデア


 このように極めて独創的な「音楽」と「カーアクション」、あるいは「生身の人間のアクト」を融合させた本作だが、そもそもの着想自体は20年以上も前に遡る。当時、エドガー・ライト監督はまだ代表作といえる作品も成しえていない20代の若者だった。そんな彼のもとに降りてきたのが「音楽」×「車」というアイディア。最初はほんの思いつきのシンプルな「種」に過ぎなかったという。

 だが、彼はその着想を大事に温め続ける。その結果、まずは自身が03年に監督を務めた、ミント・ロイヤルの”Blue Song”のPVの中で初期のアイディアを試すような形で、ライトは化学実験を敢行。ここにすでに『ベイビー・ドライバー』のプロト・タイプともいうべき形が出現しているので、お時間ある方はぜひチェックしてみてほしい。




 ここでの手応えをもとに、アイディアやストーリーをさらに補強し、根を広げ、枝を広げた結果、その寝かせた年月にふさわしいだけの充実した、エンタテイメント性をふんだんにまぶした最高のオリジナル脚本が完成した。

 どのような世界でも、人は「若い頃はなんでもできた」「あの頃は怖いもの知らずだった」と口々に言う。確かに、発想は若い時ほど柔軟で、常識にとらわれず、可能性は無限にひろがっている。だが一方で、歳と経験を重ねると、表現するノウハウや技術、スキル、予算、そして仲間が増えてアイディアを形にすることが容易になる。今やライト監督の知名度も上がり、出資者や観客の信頼も厚い。これもまた大きなアドバンテージとなろう。

 若いからこそ得られた「フレッシュな創造性」と、キャリアを経た今だからこそ可能になった「不可能を具現化する力」。いわば20代のエドガーと40代のエドガー、二人がその才能とタイミングを掛け合わせて絶妙にコラボレーションを果たした末に辿り着いたものこそ、それが本作なのだ。

 しかもこれはライト監督にとって初となる単独(で手がけた)脚本作。過去のトレードマークでもあった“軽妙な会話のやり取り”を全く新たな次元へと昇華させ、むしろセリフをなくした演出の数々が活き活きとした独創性となって結実しているのが素晴らしい。こうしてフィルムメイカーとしての自信と覚悟のほどを十分にみなぎらせた、ライトの新機軸にして最高傑作でもある本作を、ぜひ多くの人に堪能してもらいたいところである。

受け継がれる「音楽」×「カーアクション」の遺伝子


 ところで、ライト作品には数々の名作映画、特にジャンル・ムービーの遺伝子が見え隠れすることで知られる。今回も『ザ・ドライバー』や『バニシング・ポイント』、『ミニミニ大作戦』を始め、日本のアニメーション『ライディング・ビーン』などもバック・グラウンドとして含まれる中、ここでライトが80年公開の世界的大ヒット作『ブルース・ブラザース』の影響を挙げているのも忘れてはならない。

 そこに登場するのは、サングラスに黒スーツの怪しい兄弟。彼らは「ブルース・ブラザース」と名乗り、道行く先でブルースやソウルミュージックのナンバーをノリノリで演奏する。人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」で生まれたこのキャラクターは、のちに発表したアルバムが大ヒットを記録するなどセンセーションを巻き起こし、映画という大舞台でもジェームズ・ブラウンやアレサ・フランクリン、レイ・チャールズなどの華々しい顔ぶれが華を添えて大ヒットを記録した。

 また、監督のジョン・ランディスといえば、マイケル・ジャクソンの「スリラー」の伝説的なPVを手がけたことでも知られる巨匠だが、とにかくこのノリに乗った『ブルース・ブラザース』の奇想天外な発想と、音楽の勢いを借りた怒涛の展開は、今見てもすごい。すごすぎる。

 膨大な数のナンバーを作品内で炸裂させるのはもちろんのこと、なおかつ本作はことあるごとにギャグの範疇を超えるような本気度の高いカーアクションを連発。これがまたすごいのだ。ショッピングモールの中であらゆる店舗を破壊し尽くすカーチェイスが繰り広げられたり、シカゴの街並みの中を34台もの車輌が大爆走したり、車の落下するシーンのために本当にヘリで上空へ釣り上げて地面に叩き落したり、極限まで実写主義にこだわったガチのカーアクションのオンパレード。そのスケールの大きさは、当時を知るスタッフが「撮影中、みんな自分たちのやっていることの意味がわからないと混乱していたよ」と呆れ顔で打ち明けるほどだ。

 そして、当時はミュージカルといえば、登場人物が自分の心情をメロディに乗せて歌うというオーソドックスなスタイルが一般的だったが、本作は決してそれだけではなく、アクションや物語の展開そのものを音楽に乗せて描いていく型破りの手法がとられた。

 スタッフや出演者は当時を振り返ってこのように語っている。

「カーチェイスの場面にもリズムがあるんだ。ちゃんとしたミュージカルナンバーになりえているし、車がダンスしているのがわかる」

 どうだろう、この言葉。37年後の今、『ベイビー・ドライバー』へと通底するものをひしひしと感じさせられるではないか。

 『ベイビー・ドライバー』は「音楽」×「カーアクション」という極めて独創的なアイディアを具現化した作品ではあるものの、これは何も突然変異で生まれたわけではなさそうだ。その土台となる部分には、『ブルース・ブラザース』をはじめとする数々の作品が過去に切り開いてきた時代性や先駆的な感覚があったのは言うまでもない。

 かくもエドガー・ライトが放つ本作は、新旧の名作が互いに激しくクラッシュしあった末に生まれた奇跡的な産物である。その世界に触れるだけで、私たちは映画の視野をもっと広げることが可能となる。それはまさに我々にとって、ひいては映画というメディアそのものにとっても、とびきり幸福な瞬間と言えるだろう。



2017年8月19日(土)公開

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