2017.08.21
着想から20年以上。ようやく実った渾身のアイデア
このように極めて独創的な「音楽」と「カーアクション」、あるいは「生身の人間のアクト」を融合させた本作だが、そもそもの着想自体は20年以上も前に遡る。当時、エドガー・ライト監督はまだ代表作といえる作品も成しえていない20代の若者だった。そんな彼のもとに降りてきたのが「音楽」×「車」というアイディア。最初はほんの思いつきのシンプルな「種」に過ぎなかったという。
だが、彼はその着想を大事に温め続ける。その結果、まずは自身が03年に監督を務めた、ミント・ロイヤルの”Blue Song”のPVの中で初期のアイディアを試すような形で、ライトは化学実験を敢行。ここにすでに『ベイビー・ドライバー』のプロト・タイプともいうべき形が出現しているので、お時間ある方はぜひチェックしてみてほしい。
Mint Royale - Blue Song
ここでの手応えをもとに、アイディアやストーリーをさらに補強し、根を広げ、枝を広げた結果、その寝かせた年月にふさわしいだけの充実した、エンタテイメント性をふんだんにまぶした最高のオリジナル脚本が完成した。
どのような世界でも、人は「若い頃はなんでもできた」「あの頃は怖いもの知らずだった」と口々に言う。確かに、発想は若い時ほど柔軟で、常識にとらわれず、可能性は無限にひろがっている。だが一方で、歳と経験を重ねると、表現するノウハウや技術、スキル、予算、そして仲間が増えてアイディアを形にすることが容易になる。今やライト監督の知名度も上がり、出資者や観客の信頼も厚い。これもまた大きなアドバンテージとなろう。
若いからこそ得られた「フレッシュな創造性」と、キャリアを経た今だからこそ可能になった「不可能を具現化する力」。いわば20代のエドガーと40代のエドガー、二人がその才能とタイミングを掛け合わせて絶妙にコラボレーションを果たした末に辿り着いたものこそ、それが本作なのだ。
しかもこれはライト監督にとって初となる単独(で手がけた)脚本作。過去のトレードマークでもあった“軽妙な会話のやり取り”を全く新たな次元へと昇華させ、むしろセリフをなくした演出の数々が活き活きとした独創性となって結実しているのが素晴らしい。こうしてフィルムメイカーとしての自信と覚悟のほどを十分にみなぎらせた、ライトの新機軸にして最高傑作でもある本作を、ぜひ多くの人に堪能してもらいたいところである。