Seacia Pavao / (C) 2024 FOCUS FEATURES LLC.
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』アレクサンダー・ペインがこだわった’70年代テイスト
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2024.06.21
ポスト・オクタヴィア・スペンサーの登場か?
今更だが、アワードレースを語るなら、メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフの快進撃を記さないわけにはいかない。彼女がこの演技で手にしたのは、アカデミー助演女優賞をはじめ実に58の演技賞。劇中で、ハナムとアンガスがエッジィなやり取りをする中、全く別方向からこの関係に切り込んでくるメアリーは、デヴィッド・ヘミングソンの脚本の妙もさることながら、ランドルフの押し付けがましくない演技によって躍動している。挫け、敗れた主人公たちを傍で支えるこのキャラクターは、同時に、観客の期待を絶対に裏切らない心強い味方でもある。ランドルフは、ここ数年この立ち位置をキープして来たオスカー受賞者、オクタヴィア・スペンサーに取って代わる存在になるのではないだろうか。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / (C) 2024 FOCUS FEATURES LLC.
ユニバーサルのロゴも70年代を復刻
視覚的に特筆すべきは、冒頭に現れるユニバーサル・ピクチャーズの古ぼけたロゴを見れば分かる通り、あえて1970年代を表現している点だ。このロゴは1963年、つまり、オードリー・ヘプバーン、ケイリー・グラント共演の『シャレード』(63)の時と同じものだ。映画好きはそれだけでオッとなるのだが、さらに、撮影ではARRI Alexa Miniでデジタル撮影されたものに、ポスト・プロダクションでハレーションや汚れ、フィルムグレイン(粒子によるノイズ)などのセルロイド・フィルムの特徴が追加されている。
若いスタッフを集めて上映会を企画
因みに、ペインは1970年代のハリウッド映画に精通していない若い撮影監督や美術監督、衣装デザイナー、そして、特にドミニク・セッサのために、1970年代の映画上映会を企画。上映されたのは、『卒業』(67)、『真夜中の青春』(70)、『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(71)、『コールガール』(71)、『ペーパー・ムーン』(73)『さらば冬のかもめ』(73)、そして『大統領の陰謀』(76)等、時代を彩る名画の数々。
そうして、視覚的に目指すものが共有された結果、内容的に比較されがちな『いまを生きる』(89)が描いた1950年代の全寮制高校とは異なる、個性的な風景を手に入れたことも付け加えておこう。
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