『サイドウェイ』あらすじ
小説家志望で教師をしているマイルスは、親友のジャックの結婚前に二人でカリフォルニアのワイナリー巡りに出発する。独身最後のひと時を楽しませようとするマイルスの考えをよそに、ジャックは女をナンパするしか頭になかった。そんなジャックに対し、必死にワインの素晴らしさを語って聞かせようとするマイルスだったが....。
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ロードムービーにワイン愛を掛け合わせた逸品
好きな映画のジャンルは?と聞かれて「ロードムービー」と答える人は多い。かく言う私も大好きだ。そこには見たこともない景色の移り変わりがあり、旅の目的があり、移動した距離の分だけ主人公の心の成長が刻まれる。その光景を間近で見守る我々にしてみれば、ほんの2時間の物語の中で、さながら車の助手席に乗りこんだ同伴者のような旅気分を味わうことが可能だ。
2004年製作の『サイドウェイ』は、そんなロードムービー好きの映画ファンを心底楽しませてくれた逸品と言えよう。
おっと、ロードムービー好きだけではなかった。本作にはもう一つ、「ワイン好き」の要素も掛け合わされる。
『サイドウェイ』予告
描かれるのは、中年男たちがめぐるカリフォルニア州サンタバーバラのワイナリー巡礼だ。グラスに注がれるまだ果実味の初々しい赤。フレッシュな香りと味わい。そして巻き起こる狂騒と、運命の女性との出会い---。ワイン好きにとってたまらない題材であるのはもちろんだが、本作がさすがなのは、ワインをそれほど嗜んだことのない人でも、映画を見終わった時「うーん、この香りは・・・」などと、いくらかワインについて詳しくなったかのような思いに浸らせてくれたところであろう。
そんな観客が予想以上に多かったせいか、一説によると、本作の公開年には主人公の愛する”ピノ・ノワール”の売り上げが例年以上に増加したのだとか。まるっきりこの映画の受け売りだが、ピノは「育てるのが厄介で気難しいが、愛情を注いで手間暇をかけた分だけ報われる」品種らしい。それはそのまま、ポール・ジアマッティ演じる気難しい主人公マイルスの性格にぴったり当てはまる。
とすると、社交的で何があっても陽気な親友ジャックは、さながらカベルネと言ったところか。映画の中には「カベルネは放っておいてもちゃんと成長する。だがピノは手が掛かる」と言うセリフまで登場する。そんな正反対な性格の二人が親友どうしといった時点で、これはもう、互いの長所も短所も全て知り尽くし、長い年月をかけて関係性を熟成させて今ここにいる仲だと言うことが分かる。