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『クロウ/飛翔伝説』若き才能と悲劇が創った伝説のアメコミ映画

(c)Photofest / Getty Images

『クロウ/飛翔伝説』若き才能と悲劇が創った伝説のアメコミ映画

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天才たちの情熱と悲劇



 『クロウ』のあらすじは、恐ろしくシンプルだ。恋人と一緒に殺された青年エリック(ブランドン・リー)が、カラスの持つ不思議な力で不死身の肉体となって復活する。エリックはピエロのメイクをして、恋人の復讐のために悪党を次々と血祭りにあげていく。プロヤス監督自身も、物語がシンプルだと分かっていた。おまけに予算も少なく、いわゆる「B級映画程度」だったという。しかしそれでも、プロヤス監督には成功への勝ち筋も見えていた。


 まずプロヤス監督が注目したのは、「ゴス」をコンセプトにしたダークなビジュアルだ。基本的に画面に映るのは極力、黒・白・赤のみに絞り、他の色はエリックの平和な頃の回想シーンだけで使った。「夜」と「雨」にもこだわり、実際のロケ撮影もほとんどが夜に行われ、クルーは寒さに震えながら撮影に挑んだ。さらにプロヤス監督は、香港が誇る巨匠ジョン・ウーのアクションを取り入れた。スローモーションに二丁拳銃だ(本当はワイヤーアクションもやりたかったそうだが、予算と技術の両方の面から断念した)。そしてプロヤス監督自身が新人時代にミュージックビデオで培ったセンスから、劇中でロックを流しまくることを決めた。幸運にもプロデューサーも音楽畑に強く、サントラのプロデュースに奔走。当時はまだ若手だったNine Inch Nailsを筆頭に、Rage Against the MachinePanteraStone Temple PilotsHelmetなど、活きのいい若手バンドが集結し、未発表の新曲や、人気楽曲をカバーした。なお、原作者のオバーもお気に入りだったというニューウェーブ系からも、The Cureが参加している。



『クロウ/飛翔伝説』(c)Photofest / Getty Images


 ちなみにビジュアル面ではブランドン・リーも積極的にアイデアを出しており、クロウがビニールテープで自分を縛っているのは、ブランドンのアイデアだったそうだ。他にもクロウが標的を抹殺した時に残すカラスのマークは、ロサンゼルスのグラフィックアーティストがデザインした。このアーティストは、後にロックバンドRage Against the Machineの名盤「The Battle of Los Angeles」のカバーアートも手掛けている。


 後に大ブレイクを果たす若き才能たちが結集した結果、有無を言わさぬカッコいい映像に、ド迫力のアクション、最先端を突っ走るロックミュージックが出揃った。決して予算的に恵まれているとは言えない環境ながら、アレックス・プロヤスとブランドン・リー、この2人の若き天才の情熱を中心に、映画は傑作へと駆けあがっていく。恐らく撮影中に手応えを感じたのだろう。プロヤス監督は「続編が作れるように」と、いくつかの要素を作中に盛り込んだ。その際は、クロウと心を通わず少女、サラ(ロシェル・デイヴィス)を「クロウが再び舞い戻る理由」にするつもりだったそうだ。しかし、撮影をあと数日に残したとき、映画史上に残る最悪の事件が起きてしまう。ブランドン・リーが撮影中に事故死したのだ。


 その日はブランドンが銃で撃たれるシーンの撮影だった。カメラが周り、銃声が鳴る。しかし、「カット!」の声がしてもブランドンが動かない。ブランドンのひょうきんな性格を知っているスタッフたちは、彼がまたふざけているのだと思った。しかし、どれだけ待ってもブランドンが立ち上がることはなかった。やがてスタッフは事故が起きたと悟った。ブランドンを撃った銃の中に、本物が混ざっていたのだ。ブランドンは病院に運ばれたが、ほどなくして死亡が確認された。享年28歳。あまりにも早すぎる死は、世界中に衝撃を与えた。日本では考えられないが、銃が身近に存在するアメリカでは起きうる事故だった。実際、近年も2021年にアレック・ボールドウィンが現場で本物の銃を誤射している。


 なお皮肉なことに、『クロウ』にはこんなカットされたシーンがある。「銃を持った子どもたちが強盗を働き、悪党の一人を脅す」というものだ。このシーンは最終的に削除された。それはレイティングの関係で子どもが銃を持つ姿を描いてはいけなかったからだった。




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