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『密輸 1970』知力と潜水能力で悪党どもに挑め!連帯する海女たちの痛快犯罪活劇
労働者としての海女、東映アクション的面白さ
念のために述べておくと、海女の文化は韓国にも1,000年以上前からある。日本では1950年代後半、新東宝が、「海女」をタイトルに入れつつエロチックな側面を強調した映画を製作していたが、韓国映画でも、しばしば性的まなざしの対象にされながら海女は登場していた(注1)。その後いったん韓国映画の題材から退いた海女は、21世紀に入ってから、リアルな労働者として映像作品に再登場しはじめる(注2)。済州島を舞台にした美しい群像劇「私たちのブルース」(22 TV)もその例であり、『密輸 1970』(23)に登場する海女たちも、もちろんその路線に属する。
とはいえ本作の海女たちは、リアリティに軸足を置きながらもやがて日常を逸脱していく。そして彼女たちが活躍するこの作品世界の面白さは、奇しくも1960年代末から1970年代の――新東宝ではなく――東映アクション映画のそれを思わせる。大量の登場人物が入り乱れ、熱気あふれる痛快な活劇の魅力で、有無を言わさず観る者を引っぱっていくのだ。当時の東映プログラム・ピクチャーにもまさに横溢していた1970年代のサイケデリックな空気を、色彩あふれる美術と衣裳、および後述する音楽が、ヴィヴィッドに表現しているのも見逃せない。(さらに、サメも出る!)
『密輸 1970』© 2023 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K. All Rights Reserved.
充実の俳優陣
さて、その大量の登場人物のなかで、機転が利き、決してとどまることなく前進を続けるチュンジャは、この物語のエンジンというべき存在だ。彼女を演じるキム・ヘスの演技を、最初オーバーアクトだと感じる人もいるかもしれない。だが、リュ・スンワンとの対談記事のなかでパク・チャヌク監督が指摘するとおり、彼女の演技は、「私を知らないの?」という台詞をチュンジャが2度目に口にする、後半のある美しいシーンから逆算して構成されたものである(注3)。それを踏まえてこの映画を観なおせば、声の高さを鮮やかに使い分けるキム・ヘスの演技プランが、いかに緻密なものであるかがわかるだろう。
ジンスクのキャラクターは、演じるヨム・ジョンアが持つクールなイメージに合わせて構想したとリュ・スンワン監督は言う。キム・ヘスは1970年生まれ、ヨム・ジョンアは1972年生まれ。この世代の女性俳優を主役に据えて力を発揮させられるのも、現在の韓国映画界の強さだと思う。ちなみにリュ・スンワンはすでに2002年に、女性コンビを主役に据えたアクション映画『血も涙もなく』を発表しているので、本作はそのスケールアップしたリベンジ作だと言えるかもしれない。
『ただ悪より救いたまえ』(20)で難役を演じて以後、『別れる決心』(22)では一瞬の出演にもかかわらず強い印象を残し、話題作の公開がこの先も続々控えるドリ役のパク・ジョンミンと、チュンジャとジンスクに協力する喫茶店の女主人・オップン役で多彩な魅力を発揮したコ・ミンシは、どちらも今後要チェックの俳優だ。そして『モガディシュ』とはまた別の顔を見せるチョ・インソンが演じるクォン軍曹は、おそらくいちばんの「儲け役」であり、その魅力はぜひともご覧になって確かめられたい。