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『シーズ・ソー・ラヴリー』クレイジー・フォー・ユー、ジョン・カサヴェテスへのラブレター

(c)Photofest / Getty Images

『シーズ・ソー・ラヴリー』クレイジー・フォー・ユー、ジョン・カサヴェテスへのラブレター

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『シーズ・ソー・ラヴリー』あらすじ

エディとモーリーンは深く愛し合っていたが、エディは重度のアルコール依存症と放浪癖を抱えていた。ある日、エディの留守中にモーリーンが隣人に暴行される。激怒したエディは銃を持って暴れ回り、逮捕されて、施設に収容されてしまう。それから10年の月日がたち、エディは施設を出所した。エディは愛しいモーリーンのもとを訪ねるが、彼女はジョーイという資産家と再婚し、3人の子供の母親となっていた…。


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正しくない二人



 お静かに、お静かに。子どもを寝かしつけるように始まるビョークのヒット曲「イッツ・オー・ソー・クワイエット」。ビョークの囁き、吐息が労働者階級の街に静かに広がっていく。ダウンタウンのアパートの一室。ベッドで眠るモーリーン(ロビン・ライト)が目を覚ます。モーリーンは目覚めた瞬間から異様にテンションが高い。放浪癖のある恋人のエディ(ショーン・ペン)に三日間置いてきぼりにされているのだ。ビョークのシャウト!極端な静と動を行き来する「イッツ・ソー・クワイエット」という楽曲の爆発的な展開と目覚めたモーリーンの挙動が連動していく。この瞬間、『シーズ・ソー・ラヴリー』(97)という映画がまったくもって騒々しい映画になるであろうことを観客は理解する。


 本作はニック・カサヴェテス監督のフィルモグラフィーにおいて、父ジョン・カサヴェテスの映画のスピリットにもっとも近づいた作品だ。ジョン・カサヴェテスが生前に執筆したシナリオをベースにしているのだから当然といえば当然なのだが、この映画の特に前半のリズム、エディとモーリーンの破天荒な挙動には、まったく整理されていない感情が整理のされないまま爆発していくジョン・カサヴェテス映画特有のエッセンスを濃厚に感じ取ることができる。ゴツゴツとした、あの無二の感覚。


『シーズ・ソー・ラヴリー』予告


 ニック・カサヴェテスはジョン・カサヴェテスの書いた脚本の、“正しくないストーリー”に強く惹かれたという。クレイジーな恋人たち。まったくお金を持っていないエディは、そんなことはお構いなしに街へ繰り出し、閉店後のレストランの前で旨いものを食わせろと大声で叫ぶ。ほとんど常識の通じないエディは住民たちから危険人物、腫れ物のように扱われているが、その一方で一部の仲間たちからは深く愛されてもいる。レストランの店主はエディを歓迎する。ダンスホールのチケットの売り子は、一文無しのエディにお金を貸してあげる。この街にはエディやモーリーンのような人物を受け入れる寛容さがあるようだ。


 落ち着きなく、街を、酒場を徘徊するモーリーンを演じるロビン・ライトは、ジョン・カサヴェテスの映画であればジーナ・ローランズが演じていた役柄だろう。自分でもどうしたらいいのか分からない無軌道で予測不能な感覚を、ロビン・ライトは見事に体現している。この作品にロビン・ライトを推薦したのは、当時の夫ショーン・ペンだ。そもそも本作はショーン・ペンとジョン・カサヴェテスの関係から始まった企画だ。ショーン・ペンはジョン・カサヴェテスとの話し合いの中でも、当時婚姻関係にあったマドンナをモーリーン役として提案している。この提案はジョン・カサヴェテスによって却下されたという。





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