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『ラヴ・ストリームス』無防備な“愛の生活”

(c) MCMLXXXIV Cannon Films, Inc.

『ラヴ・ストリームス』無防備な“愛の生活”

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『ラヴ・ストリームス』あらすじ

現代人の孤独や愛を描く人気作家のロバート・ハーマンは、若い女性たちを居候させ、疑似家族のようなコミューンを形成していた。生まれながらの“人たらし”だったロバートはいつも人に囲まれていたが、彼は幸せが見つかりそうになると、いつもそこから逃げ出してしまう。そんなロバートは、ある日、別れた妻との息子を預かることに。ロバートは息子への接し方がわからず戸惑ってしまう。一方、ロバートの姉サラは、15年連れ添った夫との離婚に踏み切っていた。一人娘の養育権をめぐって協議を重ねていたが、サラは娘に同居を拒まれて発作を起こしてしまう。そして繊細さかつ激情的な気性に精神バランスがとれず、何度も入院を繰り返すサラ。精神科医に勧められ出かけたヨーロッパでも憂さが晴れなかったサラは、久しぶりに弟ロバートを訪ねることにする…。


Index


絶え間なく溢れ出る愛の流れ



 「人生の半分の時間は、自分が一体何をしているのか分からない」(ジョン・カサヴェテス)*1


 途絶えることのない愛を探す女と途絶えることなく愛されてしまう男。激しすぎる愛を持つ女と軽薄な愛に生きる男。サラ(ジーナ・ローランズ)とロバート(ジョン・カサヴェテス)の人生における哲学は、ほとんど交わらないように思える。しかし映画が進んでいく内に、どういうわけか二人が似た者同士のように思えてくる。キャラクター同士が補完関係にあるという分かりやすい図式を超えた何かが二人の間に生まれていく。お互いの存在を揺るがすような不安が不意な形で剥き出しにされる。魂と魂のぶつかり合い。あまりにもカサヴェテス映画的な瞬間だ。


 ジョン・カサヴェテスの映画は程度の良い合理性を拒否する。サラの激しさは周囲を呆れさせてしまう。彼女は「病人」扱いされている。誰もが適当なところで彼女の激しさを受け流している。しかしロバートだけが激しさを受け止める。『ラヴ・ストリームス』(84)は、絶え間なく溢れ出る愛の流れを問いかける映画だ。



『ラヴ・ストリームス』(c) MCMLXXXIV Cannon Films, Inc.


 本作はカサヴェテス映画の集大成的な作品だ。ジョン・カサヴェテスは撮影に入る数か月前に医師から余命を宣告されている。編集権のなかった次作『ビッグ・トラブル』(86)を自身の監督作品と認めていないジョン・カサヴェテスにとって、すべてをコントロールできた事実上の遺作である。


 また、製作会社のキャノン・フィルムズが芸術的な観点からの評価を得たがっていたことも大きい。この時期のキャノン・フィルムズは、チャック・ノリス主演のアクション映画等で知られていたメナハム・ゴーラン監督の全盛だったが、一方で本作やジャン=リュック・ゴダール監督の『ゴダールのリア王』(87)のプロデュース業にも参入している。ジョン・カサヴェテスは「絶対に儲からない映画」として本作を提案し、ファイナルカットの権利を得ている。





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