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『ロンリー・ブラッド』ショーン・ペンとクリストファー・ウォーケン、冷たい血へのレクイエム

(c)Photofest / Getty Images

『ロンリー・ブラッド』ショーン・ペンとクリストファー・ウォーケン、冷たい血へのレクイエム

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『ロンリー・ブラッド』あらすじ

ペンシルヴァニアの田舎町で、母と弟と暮らしていたブラッド・ジュニア。成功を夢見るジュニアの前に家族を捨てた父ブラッド・シニアが現れる。ジュニアはヤクザ家業をやっていた父の一味に加わるが、虫ケラのように人を殺す父に反発し、独断で盗みを働いて逮捕されてしまう。一方、父シニアは、ジュニアが変わったのは恋人の影響だと思い込み、ジュニアの恋人に暴行を加える。恋人が父に暴行されたと知ったジュニアは、父を裏切って恋人と町を出る決心を固めるが……。


Index


冷血のネオ・ノワール



 映画の風景を思い出すだけで、ひどく悲しく、暗い気持ちで胸が押し潰されそうになってしまう作品がある。ペンシルベニア州で実際に起きた痛ましい事件を元にしたネオ・ノワールの傑作『ロンリー・ブラッド』(86)。向こう見ずで繊細な不良青年ブラッド・ホワイト・ジュニアを演じたショーン・ペンと、血も涙もない、まさに非情という言葉を全身に纏う父親ブラッド・ホワイト・シニアを演じたクリストファー・ウォーケン。そして主題歌にもなったマドンナの大ヒット曲「Live to Tell」のイントロシンセ音が、殺伐としたペンシルベニアの田舎町の風景に何度も繰り返される。ミニマル・ミュージックのように反復されるシンセ音は、この土地に向けられた霊的な祈りのように響く。しかし、殺伐とした物語にメランコリックな彩りを与える祈りの音楽さえ、この痛ましい悲劇を救うことはできない。


「live to tell」MV


 あまりにも殺伐とした風景、あまりにも殺伐とした物語なのだ。ブラッド・ジュニアは田舎の風景から飛び出すために、自分を捨てたはずの父親が持つ富とカリスマ性に惹かれ、やがて認められたいさえと思うようになっていく。この地域の犯罪グループのボスであるブラッド・シニアは、父親としての役目を果たすことにまったく興味はないが、息子という子分を持つというアイデアに関しては気に入っている。ブラッド・ジュニアには弟のトミーがいる。まだ子供っぽさが消えないゆえに兄より危なっかしい存在といえるトミー役を、ショーン・ペンの実の弟クリス・ペンが見事に演じている。トミーはブラッド・シニアの富やカリスマ性にあからさまに好奇の目を輝かせている。


 元妻に金銭を渡すために家に侵入してきた父親の圧倒的なカリスマ性。目の前の父親に心を奪われていることを悟られまいと本心をユーモアで隠すブラッド・ジュニア。ここでのショーン・ペンの演技は素晴らしい。心の奥にある感情をいかに隠すか。これは本作のメインキャストに課せられた演技上のテーマともいえる。なぜならブラッド・シニアの前で感情を表に出すことは、自分の命に係わる危険な賭けになりかねないからだ。ブラッド・シニアが振りまく笑顔の仮面の下には、冷血無慈悲な感情があることを誰もが知っている。悪魔以外の何者でもないブラッド・シニア。本作のカメラマンを務めたファン・ルイス・アンシアは、カリスマ的犯罪者の冷血な肌や殺伐としたペンシルベニアの風景に、ゴシック的ともいえる深い影を滲ませていく。





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