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『ロンリー・ブラッド』ショーン・ペンとクリストファー・ウォーケン、冷たい血へのレクイエム

(c)Photofest / Getty Images

『ロンリー・ブラッド』ショーン・ペンとクリストファー・ウォーケン、冷たい血へのレクイエム

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ジョンストン・ファミリー



 『ロンリー・ブラッド』は、78年に実際に起きた事件を元にしている。ブラッド・シニアのモデルとなったブルース・ジョンストン・シニアが率いるジョンストン・ギャングは、ペンシルベニア州を中心に犯罪ネットワークを広げていき、農機具や骨董品の窃盗、麻薬の売買に暗躍する一大犯罪グループだった。


 息子であるブルース・ジョンストン・ジュニアに犯罪グループを結成することを勧めたブルース・シニアは、息子の逮捕をきっかけに窮地に追い込まれていく。警察とFBIが裏で動いていることを知ったブルース・シニアは、自分にとって不都合な人物を片っ端から殺害し始める。その中にはブルース・ジュニアの弟ジェームズも含まれていた。ブルース・ジュニアは刑務所にいたため安全だったが、彼と交際していた15歳の恋人ロビン・ミラーは、ブルース・シニアによって性的暴行を加えられてしまう。ブルース・ジュニアは、恋人が父親から性的暴行を受けたことを彼女からの手紙で知ることになる。釈放されたブルース・ジュニアは、ロビンの家の前で銃撃される。ロビンは喉に銃撃を受け即死したが、ブルース・ジュニアは頭部を含む合計8発の銃撃を浴びたものの生き延び、命からがら家に戻り警察に通報する。



『ロンリー・ブラッド』(c)Photofest / Getty Images


 ブルース・シニアは81年の裁判で終身刑を宣告され、2002年にペンシルベニアの刑務所で63歳で亡くなっている。そしてこれは残念なことだが、父親の犯罪を証言したブルース・ジュニアは2013年に麻薬の運搬容疑で逮捕されている。当時は、彼の育った環境に同情する者もいたという。『ロンリー・ブラッド』で、父親が本当に危険な人物であることを痛感したブラッド・ジュニアは、組織から脱退することを父親に告げる。父親は息子を突き放すようにこう言い放つ。「お前は盗みしかできない」。映画のモデルとなった人物は、実際にこの台詞を体現するような犯罪に再び手を染めてしまった。その悲しみに言葉を失ってしまう。


 監督のジェームズ・フォーリーが言うように、『ロンリー・ブラッド』が題材とした事件はあまりにも殺伐としすぎている。当初ブラッド・シニア役をオファーされていたロバート・デ・ニーロが、「暗すぎる」という理由で断ったのも頷けるほど、事件は陰惨を極めている。


 ジェームズ・フォーリーは長編デビュー作『俺たちの明日』(84)で、工場地帯に住む行き場のない若者たちを描いている。エイダン・クイン演じる主人公がバイクで駆け抜けたり、アル中の父親をチェーンで繋ぐシーンなど、製鉄所から出る有害な煙に包まれた行き場のない町の風景に、この映画作家の真骨頂がよく表されているといえる。容赦のない状況、そして容赦のない繋がりを描くとき、ジェームズ・フォーリーの映画はより鋭利になっていく。このことは、マーク・ウォールバーグが危険なストーカーを演じた『悪魔の恋人』(96)にも当てはまる。そしてジェームズ・フォーリーのスピリットは、この映画作家のことを誰よりも高く評価していた青山真治の映画にも引き継がれている。





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