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『ロンリー・ブラッド』ショーン・ペンとクリストファー・ウォーケン、冷たい血へのレクイエム

(c)Photofest / Getty Images

『ロンリー・ブラッド』ショーン・ペンとクリストファー・ウォーケン、冷たい血へのレクイエム

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恐怖と緊張



 「ショーン・ペンから監督をやってくれないかという話がありました。ショーンとはとても相性がよく、作品の権限も握っていたので、やりたいことが何でもできたのです。当時はその重要性を理解していませんでした。やりたい放題、クレイジーなことに挑戦して、他人の目など気にする必要がなかったのです」(ジェームズ・フォーリー)*


 『ロンリー・ブラッド』は、当時まだ若手俳優だったショーン・ペンによって持ち込まれた企画だったという。ブラッド・シニア役にクリストファー・ウォーケンを推薦したのもショーン・ペンだ。二人は役作りのためショーン・ペンの運転する車で、ニューヨークからロケ地となったテネシーまでドライブしている。ブラッド・ジュニア役のための肉体改造を含め、本作は80年代のショーン・ペンがもっとも熱意を注いだ作品といえる。


 ブラッド・ジュニアが父親に銃を向けるシーンでは、銃口を至近距離で向けられたクリストファー・ウォーケンのリアルな怯えがカメラに捉えられている(「至近距離で=At Close Range」は本作の原題でもある)。テイクの途中で突如演技を中断し、撮影用に用意された銃とは別の銃に持ち替えたショーン・ペンに、とてつもない恐怖を覚えたとクリストファー・ウォーケンは後に語っている。『バッド・ボーイズ』(83)等の作品における危なっかしい不良少年のイメージだけでなく、ハリウッドのアウトロー青年のイメージを公私共に纏っていた当時のショーン・ペン。クリストファー・ウォーケンが覚えた恐怖は想像を絶する。このシーンでクリストファー・ウォーケンの演技は、パニックを引き起こされている。そして二人の稀代の俳優がいつ何をするか分からないところが、本作のただならぬ緊張感につながっている。



『ロンリー・ブラッド』(c)Photofest / Getty Images


 かつての仲間であり裏切り者のレスターに強い酒を飲ませ、森の湖に沈めることを指示するブラッド・シニア。ギャング団に連行され、森に向かう車中で、レスターはこれから自分の身に起こる恐怖に怯えている。そしてブラッド・ジュニアの弟トミーが山奥に連行され殺害されるシーンでは、恐怖に怯え命乞いをする息子の懇願の涙さえブラッド・シニアには通じない。悪魔的なオーラによって相手に催眠術をかけるようなブラッド・シニア役は、クリストファー・ウォーケンの偉大なキャリアにとっても忘れがたい演技の一つといえるだろう。


 ブラッド・ジュニアが結成する少年犯罪団に、若きキーファー・サザーランドやクリスピン・グローヴァーがキャスティングされているのも本作の魅力だ。また同じくクリスピン・グローヴァーが出演するティム・ハンター監督の『リバース・エッジ』(86)は、殺伐とした田舎のムードを捉えた同時代の隠れた傑作だ。この作品は岡崎京子による永遠の傑作漫画「リバーズ・エッジ」のインスピレーション元にもなっている。





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