『化け猫あんずちゃん』に繋がる、前田敦子演じるタマ子の「ゆるキャラ」ぶり
さて、では本作『もらとりあむタマ子』が、いましろたかし的な「生臭さ」を伝えるかというと、そこは実に絶妙な変換が為されているのだった。なにせタマ子を演じるのは、2012年にアイドルグループ「AKB48」を卒業したばかりの前田敦子。『苦役列車』(12)に続いて山下敦弘監督と組んだわけだが、「神7」の中でも不動のセンターと呼ばれ、『前田敦子はキリストを超えた』(濱野智史著、2012年12月刊行)という社会学の著作まで派生させてしまったトップアイドルが、ボサボサ頭の冴えないダメ女子役にリアルにハマっているというのは当時なかなかの衝撃だった。山下監督と脚本の向井は、いつも不機嫌でふくれっ面のタマ子の人物造形にフランス映画『なまいきシャルロット』(85/監督:クロード・ミレール)のシャルロット・ゲンズブールを重ね合わせたのだという。すなわち特濃のいましろイズムに、キュートなアイドル性を融合させることで前代未聞の化学反応が起き、タマ子という画期的な「ゆるキャラ」のヒロインが爆誕したのであった。
『もらとりあむタマ子』© 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会
この「ゆるキャラ」ぶりで繋がるのが、今年(2024年)5月、第77回カンヌ国際映画祭「監督週間」に出品され、7月に劇場公開された日仏合作アニメーション映画『化け猫あんずちゃん』である。原作はいましろたかしが2006年~2007年、講談社のコミックボンボンに連載した同名マンガ(現在は「風雲編」がコミックDAYSで連載中)。実写映像のトレースをもとに作画していくロトスコープという手法で制作され、アニメ監督は新進気鋭の久野遥子。彼女もガチのいましろファンらしい。そして実写段階の監督を務めたのが山下敦弘だ。あんずちゃんは田舎のお寺に住み着いた化け猫で、適当にバイトしながら呑気に暮らす37歳の「もらとりあむ」なおっさん。基本的にはいつものいましろキャラ(のはず)なのだが、見た目が図体のでかい着ぐるみ的な生き物になっていることから、トトロもびっくりの「ゆるキャラ」に変換されているのが特徴だ(タマ子とはガラケーを愛用していることも共通)。
本作の脚本を務めたのはカルトな人気監督として知られる、いまおかしんじ。字面もいましろたかしに良く似ている彼(かつては「今岡信治」名義だった)は、やはりいましろマンガの大ファンで、ピンク映画『痴漢電車 弁天のお尻』(98)は、いましろの代表作『デメキング』をベースにしたものだった。そして彼ら「いましろたかしスクール」の作品は、とうとうカンヌまで届いてしまったのである。