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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』暴走する権力に向けた抵抗の物語

ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』暴走する権力に向けた抵抗の物語

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繰り返す歴史と、いまそこにある危機



 と、ここまでは映画の中のフィクションの話だが、現実においても似たような事態は繰り返し起きている。


 例えばナポレオンは、18世紀末のフランス革命の混乱期に軍功を上げ、軍事力と人気に後押しされて新政権の“第一統領”に就任した。やがて憲法を改変し、“統領”の任期制限を取っ払って終身制に変更する。さらに権力を盤石にするために“フランス皇帝”となり、皇帝の地位を世襲制とした。フランス革命は君主制を倒して共和国を打ち立てた市民革命だったはずが、ルイ16世の処刑からわずか11年後に、新たな君主としてナポレオンを戴く帝国に様変わりしたのだ。


 最近の日本でも、似たことが起きた。日本の総理大臣は、国民による直接選挙ではなく国会議員による間接選挙で選ばれるため、議席の過半数を押さえた勢力が実質的に総理大臣を任命できる。そして長らく自民党が第一党であることから、自民党総裁に選出された議員がおのずと日本の総理大臣になる。


 実は日本国憲法に総理大臣の任期規定はない。しかし自民党の党則には総裁の任期の規定がある。時代によって変動はあるが、1978年以降は一期2年、再選は2期まで。2003年からは一期3年に延長され、最長で6年間務められるようになった。そして2017年に、さらに一期3年で3期と、最長9年に改変されたのである。


 自民党が党内の規則を変えただけなので、違法性はない。しかし「現状維持」より「新陳代謝」が民主主義国家の原則であることはすでに述べた。当時の安倍政権が日本の憲政史上最長の在職日数を達成したことは、道義的なルールを無視した結果とも言える。そして任期延長の問題が大きく取りざたされることなく、国民不在のまま決まる現行のシステムにも危うさを感じる。政権与党の都合で任期を伸ばせるなら、総理大臣の終身制だって実現させられるからだ。



『シビル・ウォー アメリカ最後の日』ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.  All Rights Reserved.


 また2021年に起きたアメリカ合衆国議事堂襲撃事件も、「民主主義の崩壊」の一歩手前を思わせる異様な光景だった。大統領選でジョー・バイデンに敗れたドナルド・トランプ元大統領が「選挙で不正が行われた」と一方的に主張し、800人ものトランプ支持者が国会議事堂を占拠しようとなだれ込んだのだ。あのときバイデンの大統領指名が食い止められていたら、トランプ政権は暫定的に二期目に入っていたかもと思うのはSF的すぎるだろうか。


 ガーランドは劇場パンフレット掲載のインタビューで、『シビル・ウォー』では「過激派の政治家とポピュリストの政治家が台頭した先にある未来を描いた」と発言している。人気取りを優先してルールを曲げるポピュリズム政治の未来像は、すでにわれわれの眼の前にいくつも転がっているのだ。





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