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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』暴走する権力に向けた抵抗の物語

ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』暴走する権力に向けた抵抗の物語

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』あらすじ

連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー



 映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の原題は「CIVIL WAR」。直訳すると「内戦」だが、「THE CIVIL WAR」と書けば、1861年に勃発したアメリカの南北戦争を指す。ただし本作が描いているのは、南北戦争や過去に起きた内戦ではない。近未来のアメリカを舞台にした、あくまでも架空の内戦である。しかし“分断”という言葉が身近なものとして語られる世界の現状が行間に織り込むように反映されていて、まるで現実と見紛うリアリティに悄然とさせられる。


 イギリス人であるアレックス・ガーランド監督がアメリカを舞台に選んだのは、今日起こり得るケーススタディとして最もセンセーショナルでヴィヴィッドな国だからだろう。ただし背景の説明は最小限にとどめ、内戦下で起きる事象を具体的かつ写実的に描くアプローチによって、アメリカのみならずさまざまな国やシチュエーションになぞらえられるように設計されている。


 市民が銃を取って民兵となり、武装集団が乱立する様はいかにもアメリカ的に思える。しかし政治や価値観の分断、疲弊した社会にはびこる偏見や差別の暴走、報道の弱体化などは、われわれを取り巻く世界の現実をアンプを通すように増幅させて戯画化したものなのだ。


『シビル・ウォー アメリカ最後の日』予告


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ガーランドが描き出す「国家の危機」



 しかし、こうも簡単に超大国アメリカがバラバラになるものだろうか? 映画が始まった時点で、合衆国政府はほとんど瀕死の状態にある。大統領はホワイトハウスに立てこもり、空疎なプロパガンダ動画を発信する以外もう14ヶ月も取材を受けていない。各州はいくつかの勢力に分かれ、カリフォルニア州とテキサス州が手を組んだ「西部勢力(Western Forces)」が首都ワシントンD.C.に進軍中。ワシントンD.C.は陥落寸前で、まさに大統領政府は転覆の危機に瀕している。


 ガーランド監督は、どの勢力が正しく、どの勢力が間違っているかを善悪で色分けするような単純化を巧妙に避けている。それでも色濃く漂ってくるのが、ドナルド・トランプを思わせる大統領(劇中ではただ“大統領”と呼ばれている)のヤバさ。内戦が起きた直接的な原因は語らずとも、大統領についての劇中のセリフを追えば、ガーランドが「国家の危機」をどう捉えているのかが浮かび上がる。


 物語上で語られる事実をいくつか列挙してみよう。


1) 大統領は3期目の任期を迎えている

2) 大統領はFBIを解体した

3) 大統領はアメリカ市民への空爆を指示した


 「3期目の任期」とは、アメリカ大統領の任期は合衆国憲法修正第22条で「一期4年を2期まで」と定められているのに、強引に任期を延長したことを意味する。



『シビル・ウォー アメリカ最後の日』ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.  All Rights Reserved.


 「FBIの解体」は、FBI(連邦捜査局)が政府による犯罪も管轄しているため、大統領が自らの違法行為を隠蔽するために解散させた可能性が高い。またFBIは複数の州にまたがる犯罪を担当する組織でもある。FBIが解散した以上、司法の捜査が国全体に及ばない混乱状態に陥っているといえる。


 つまり劇中のアメリカは、国の要である憲法が侵され、政府の暴走を監視する機関は封鎖され、治安維持もできなくなった。大統領は抵抗勢力を封じるためなら「市民への軍事攻撃」すら辞さなくなっている。国家が国民を守るという大原則を放棄したのだ。戦争や内戦の大義にまつわる議論はさておいても、この大統領政府が末期状態にあることは明白だ。





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