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『夜のまにまに』ことの始まりは映画館ーーー。街の灯りを泳ぐように「さよなら」を超えていく逸品

©belly roll film

『夜のまにまに』ことの始まりは映画館ーーー。街の灯りを泳ぐように「さよなら」を超えていく逸品

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映画館で起こる運命的な出会い



 デビュー作から8年。最新作『夜のまにまに』は6本目の長編作品にして、磯部作品の集大成とも呼ぶべき一作だ。そこには、多くの作品と同じく、トレードマーク的な「ゆっくりとした夜」と、ついたり離れたりしながら歩む「距離移動」が刻まれている。ただしそれだけではない。今回、私たちをとりわけ魅了するのは、実に流麗かつ洗練された物語の折り込み方だ。


 そこではスクリーンという名のキャンバスに登場人物たちの幾つもの「さよなら」が描かれていく。幼なじみの彼女と別れたばかりの主人公・新平(加部亜門)、付き合っている恋人に浮気されたらしい佳純(山本奈衣瑠)、亡くなった夫の浮気相手を探し続けるマダム。それぞれに割り切れない思いを抱えた三人は、奇しくも貸し切り状態の映画館の客席でめぐり合い、思いのほか意気投合。その後、新平と佳純は不思議な運命に導かれて再会し、ついたり離れたり、口論したり、互いを思い合ったりしながら、日常をたゆたっていくーーー。



『夜のまにまに』©belly roll film


 映画館のシーンで上映中なのが、フランク・キャプラ監督の『或る夜の出来事』(34)というところが非常に粋だ。何しろこの名作ときたら、ニューヨーク行きの深夜バスの座席をめぐって新聞記者と逃避行中のご令嬢が運命的な出会いを果たすという筋書きであり、本作とそのシチュエーションを緩やかに共鳴させているのだから。


 また中盤には、浮気調査すべく新平と佳純が二人して探偵稼業の真似事のように、夜な夜なぎこちなく張り込みに興じる姿が描かれる。これもまた現代の大阪を舞台にしながら、どこかハリウッド黄金期のスクリューボール・コメディを彷彿とさせる設定なのがなんとも心憎い。





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