『ナミビアの砂漠』あらすじ
世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・?
Index
雑踏の中のヒロイン
「今後の目標は生存です」
ロングショットで捉えられた町田駅前の通路。カメラのズーミングによって私たちはカナ(河合優実)という無二のヒロインを雑踏の中から“発見”する。カナのぶっきらぼうな歩き方は、少女というよりもどちらかといえば少年のようでもある。彼女には同級生の友人(新谷ゆづみ)とカフェでの待合せの約束がある。昼間のカフェのシーンから夜の街のカオスへ続いていく冒頭の数シーンの間に、カナという女性が日頃どのような視線に囲まれて生きているのかが分かるようになっている。
友人から唐突に同級生の自殺の話を聞かされても、どの同級生のことなのかすぐに思い出せないカナ。二人の近くの席では、若い男性たちが風俗店の話で盛り上がっている。不愉快な猥談を他の客にも聞こえるように話すデリカシーのない男性たち。二人は夜の街に繰り出し、すぐに別れる。一人で路上に佇んでいるカナ。風俗店のスカウトが下品な言葉で絡んでくる。しつこくつきまとうスカウトにブチキレるカナ。この一連のシーンには、若い女性が浴びる視線のマイナス面が地獄絵図のように表わされている。
『ナミビアの砂漠』©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
ボトルをラッパ飲みするカナ。走行中のタクシーの窓から嘔吐するカナ。カナは二人のボーイフレンドの間を行ったり来たりする生活をしている。文字通りフラフラと路上を彷徨い続けるカナ。カナはまったく整理されていない感情を整理しないまま世界に吐き出している。カナを演じる河合優実には生々しい肌の匂いのようなものがある。そこが圧倒的に素晴らしい。アルコールと嘔吐物と肌の香りが混ざったような不快な香り。カナは暴力さえ振るう人物だ。しかしこのヒロインはとにかく最高だ。カナ=河合優実の実存が“正しさ”を超えてくる。
カメラは夜の公園で片手にワインボトルを持つカナの華奢な腕を捉える。街灯に照らされたその腕の細さ、白さに思わず胸が苦しくなる。「今後の目標は生存です」。『ナミビアの砂漠』(24)はカナ=河合優実の“生態”と“生存”をただただ記録し続ける。それがこの映画のすべてであり、だからこそ素晴らしい。