2024.11.25
ロビン・ウィリアムズが演じた意味
事実と脚色の乖離。しかし、そんな比較論はロビン・ウィリアムズの独自の解釈とテンポ、そして、あの誰もが惹きつけられる優しさと悲しみに満ちた青い瞳によって意味を失う。『グッドモーニング, ベトナム』の撮影現場ではそれが起きていた。まず、DJの部分は彼の即興である。スタンダップ・コメディアンとしてライブの怖さと快感を熟知していたウィリアムズは、監督のレヴィンソンの指示を大きく逸脱して、時にはあらぬ方向へとハンドルを切ることもあった。彼の自然発生的なマシンガントークがいかに楽しかったかは、側で耳を傾ける共演者のフォレスト・ウィテカーやロバート・ウールの反応を見ればよく分かる。猛スピードで繰り出されるジョークを観客が全部理解できるかは別問題だが…。
また、クロンナウアが現地の人々に英語を教えるシーンの撮影は、当初脚本通りに進んでいたが、面白みに欠けると感じたレヴィンソンは、休憩時エキストラたちと楽しそうに歓談するウィリアムズを見て、「台本は無視していいから、その感じで行ってくれ」と指示。すると本番では、監督からのキューが出た途端、ウィリアムズのアドリブが先生と生徒の距離を一気に縮め、印象的で温かくスリリングな対話がカメラに収められていった。
それでも、ウィリアムズは自分の演技に自信が持てず、もしもうまくいかなければリテイクの費用は自分が持つと申し出て、監督を困らせることもあったという。それほど当時のウィリアムズは、深刻なスランプ状態にいたのである。