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『グッドモーニング, ベトナム』スランプのロビン・ウィリアムズを甦らせたマシンガントーク

(c)Photofest / Getty Images

『グッドモーニング, ベトナム』スランプのロビン・ウィリアムズを甦らせたマシンガントーク

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起死回生の作品



 1973年ニューヨーク、ジュリアード音楽院に全額支給奨学金を得て入学したウィリアムズは、同音楽院の演技指導者で、俳優でもあったジョン・ハウスマンが担当するアドバンス・プログラム*の受講を許された2人の学生のうちの1人だった。もう1人はクリストファー・リーブである。リーブは当時のウィリアムズについて、「口が縛られていない風船のように飛び跳ねていた」と振り返っている。


 ジュリアード卒業後、ウィリアムズはサンフランシスコのベイエリアでスタンダップコメディアンとしてのキャリアをスタートさせる。その後L.A.に移り、人気TVシリーズ「ハッピーデイズ」(74~84)に登場する宇宙人モーク役を代役として演じることになったウィリアムズは、スタンダップコメディで培った即興を駆使して評判を得た。モークの人気を受けたTV局は、スピンオフ・シリーズ「モーク&ミンディ」(78~82)の製作に着手。それは、ロビン・ウィリアムズにとって最初の黄金期だったと言える。


 だが、映画の方では思ったほどの成果は得られなかった。コミックのイメージに沿った特殊メイクで挑んだ『ポパイ』(80)、ジョン・アーヴィングの名著を元にした『ガープの世界』(82)、アメリカに亡命したソ連人サックス奏者の孤独を描いた『ハドソン河のモスコー』(84)など、作品の評価はさておき俳優としてのブレイクスルーには至らなかった。そんなウィリアムズが、起死回生の1作として挑んだのが『グッドモーニング, ベトナム』だったのだ。


 バリー・レヴィンソンによると、当時のウィリアムズはこれが映画としてはラストチャンスになるかもしれないと、真剣に危惧していたという。だが結果はご存知の通り。彼はこれで息を吹き返し、2年後の『いまを生きる』(89)では本作でのクロンナウア役をさらにブラッシュアップした反骨精神に溢れる教師役で、笑いとシリアスの絶妙な配分を確かなものにする。


 レヴィンソンは『グッドモーニング, ベトナム』の劇中で、戦場の兵士たちに向けてルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」を クロンナウアがかけるシーンが忘れられないという。それは、俳優ロビン・ウィリアムズ自身が選んだ戦争の時代に対するアンセムのようにも聞こえたからだ。映画でも、ステージ上でも、強烈なジョークやモノマネで爆笑を誘いながら、決して瞳は浮かれていない。それどころか、騒げば騒ぐほどブルーの瞳は澱んでいく。その瞬間生まれる奇妙な違和感こそが、ロビン・ウィリアムズの魅力であり、笑いの本質だったと言える。



*)才能がある学生のみを対象とする少数精鋭の教育プログラム



たとえオスカーは獲れなくても



 『グッドモーニング, ベトナム』の演技で、ウィリアムズは第60回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされる。『ラストエンペラー』(87)が大量受賞したこの年、期待された主演男優賞は『ウォール街』(87)のマイケル・ダグラスにもたらされた。ウィリアムズがようやく黄金像を手にしたのは、それから10年後の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)である。アカデミー賞は必ずしもその年のベストに手渡されるものではない。だが、ウィリアムズは本当にオスカーが欲しかった。彼の喜びがいかに大きかったかは、受賞の瞬間を舞台袖で見守る親友ビリー・クリスタル(当夜のMC)の嬉しそうな表情からも伝わった。


 たとえアカデミー賞は逃しても、『グッドモーニング, ベトナム』のDJ役はロビン・ウィリアムズのベストワークに数えられる。彼が突然この世を去って今年でちょうど10年。あの物悲しい瞳でマシンガントークする姿を、国宝とまで讃えられた才能の発露を、是非もう一度見てみたい。


参照

https://www.yahoo.com/entertainment/robin-williams-good-morning-vietnam-barry-levinson-spoken-blackface-144840031.html



文:清藤秀人(きよとう ひでと)

アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。



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