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ノーラン初のメジャースタジオ作品
『メメント』(00)が製作された20年以上前、監督のクリストファー・ノーランが、こんなにも大きな存在になると想像できた人は少なかったのではないか。今やビッグバジェットを注ぎ込み、作りたいものを作ることができるハリウッドの数少ない鬼才。近作『TENET テネット』(20)では2億〜2億2,500万ドルの製作費が使われたが、これは彼の監督作では『ダークナイト ライジング』(12)の2億5,000万ドルに続いて2番目の巨費。質の高さを誇る鬼才にして、ヒットメイカーであると、ハリウッドが認めていることの表われだ。
そんなノーランが、初めてメジャースタジオで撮ったのが『インソムニア』(02)。『ダークナイト』(08)で世界注視の監督となって以来、『インセプション』(10)や『インターステラー』(14)『ダンケルク』(17)などの大作を次々と放ってきた彼だが、それらに比べると本作は忘れられがち。とはいえ、見応えの十分の力作であることに疑問の余地はない。そこで改めて、このサスペンスの魅力に迫ってみようと思う。
そもそも本作はノルウェーで1997年に製作されたスリラーのハリウッド・リメイク。このオリジナル版は日本では劇場未公開だったが、『インソムニア』が評判になったことにより、『不眠症 オリジナル版 ~インソムニア~』のタイトルでソフトリリースされた。興味のある方は、ぜひ見比べてみてほしい。
リメイク権を得た米ワーナー・ブラザースは、さっそく翌年に製作に着手し、気鋭の脚本家ヒラリー・セイツにシナリオを任せる。できあがった脚本はオリジナル版のフォーマットを踏まえながらも、主人公の刑事ドーマーの道徳的な葛藤という新味が加えられた。製作総指揮を務めたスティーヴン・ソダーバーグとジョージ・クルーニーは『メメント』に衝撃を受け、ノーランは彼らの推薦を得てメジャー・デビューを果たした。