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『インソムニア』“雇われ監督”でも才能がきらめく! 鬼才ノーランの傑作スリラーの魅力

(c)Photofest / Getty Images

『インソムニア』“雇われ監督”でも才能がきらめく! 鬼才ノーランの傑作スリラーの魅力

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夢と現実、幻想と日常が交錯する混沌の”不眠症”ワールド



 何よりもノーランらしいのは、フラッシュバックにより主人公の心の混沌を描き出していることだ。『ダークナイト』三部作でも主人公ブルース・ウェインのトラウマがフラッシュバックによって表現されていたが、本作でも相棒を殺し、それを隠ぺいしたドーマーの悪事の記憶がフラッシュバック。それは彼の不眠症状態と相まって、記憶の混濁による壮絶な葛藤状態をも表現している。


 記憶が逆行する『メメント』から、幾層もの夢と現実を混濁させた『インセプション』の映像表現をつなぐ、ノーラン作品のリンクともいえるだろう。


『インセプション』予告


 ノーランの確固たるビジョンを映像化するうえで強い味方となったのは、撮影監督のウォーリー・フィスターだ。『メメント』に続いてのタッグとなった本作で、彼はビジュアルをさらに発展させた。前作のダークなトーンから一転、白日の下の風景を幻想的といえるほどの美しさで切り取ったフィスターの功績は決して無視できない。以後、彼は『ダークナイト ライジング』まで、すべてのノーラン作品のカメラマンを務め、2014年にはノーランのプロデュースによる『トランセンデンス』で映画監督デビューを果たす。


 本作の成功を経て、ノーランは大作『バットマン・ビギンズ』(05)の監督に抜擢されるが、以後の歩みについては説明不要だろう。“雇われ監督”とはいえ、いや、”雇われ監督”だったからこそ、本作ではノーランの映像表現の才腕が際立った。才腕が発揮できたのは、もちろんこの物語に共鳴したからこそだ。


『TENET テネット』予告


 「面白い物語は、混沌としているものだ。それは見る者を常に不安にさせる」とは、本作について語った彼の弁だが、それは以後の彼のすべての監督作にも当てはまる。時間の逆行がモチーフになる『TENET テネット』と合わせて、見直してみてはどうだろう。



文: 相馬学

情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。



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