一人の教師が巻き起こした授業改革とは?
今回、デルベスが演じるのは、国境の街マタモロスにある学力最底辺レベルの小学校に赴任してくる教師役。ここでは強盗、殺人、麻薬売買、ギャング同士の抗争など様々な問題があふれ、子供たちは日々、命の危機に晒されながら生きている。また、家庭の貧困などの経済的な理由で学校へ通う道を閉ざされてしまう例も少なくない。そんな現実の中で、生徒たちは「学び」が実生活にもたらす影響力なんてこれっぽっちもイメージできず、また教師たちの中にも教える意欲を失い、職務上の保身に回ってばかりの者も多い。
そんな中で自ら希望してこの学校へやってきたフアレス先生は、初日から大きな波を起こし始める。彼は突如として生徒たちに「今にも船が沈みそうだ!」とイメージを喚起させ、びっくりして口半開きになる子供らに、「さあ、クラス全員の23名が6つの救命ボートに乗り込んで生き延びるにはどうすればいい?」と問いかけ、皆に考えさせる。単純な算数の計算だ。しかし、ある生徒はそれをきっかけに「なぜ物は浮かんだり沈んだりするのか?」という物理学的な命題に行き着き、またある生徒はそこで生じる人間の権利や平等といった哲学的な要素に興味を持ちはじめたりもする。人は千差万別。思考の枝は無数に分かれていく。
『型破りな教室』©Pantelion 2.0, LLC
フアレス先生の狙いはそこだ。教科書やカリキュラムに沿って単に知識を押し付けるのではなく、生徒それぞれに興味関心を見つけさせ、先生はそこで生じた疑問を解き明かすためのヒントやアドバイスを与える。そして後は独力で乗り越えさせていく。
そうやって答えを見つけた生徒たちの表情はなんと生き生きとしていることか。この学校や現実社会ですっかり意味を見失っていた「学び」が本来の輝きを取り戻しはじめ、その様子がありありと伝わってくる。さらに彼らは教室で車座になって個々が習得した知識を発表し、共有しあうのである。
そんな中、フアレスは女子生徒の一人が並外れた理数系の才能を秘めていることに気づき、彼女が可能性の扉を押し開くための力となりたいと願うが・・・。