1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 陪審員2番
  4. 『陪審員2番』SNS私刑時代にクリント・イーストウッドが正義を問う
『陪審員2番』SNS私刑時代にクリント・イーストウッドが正義を問う

© 2024 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. Max and related elements are property of Home Box Office, Inc.

『陪審員2番』SNS私刑時代にクリント・イーストウッドが正義を問う

PAGES


私刑時代に「正義」を問う



 劇中では、公正な司法と裁判を象徴する「正義の女神像」が何度も映し出される。手にした天秤で真実を正確に測り、剣=力をもって正義を実行するときは、先入観に惑わされず心の眼で判断せねばならないという、“法の下の平等”のアイコンだ。サイスの弁護士エリック・レズニックの、「司法制度は完璧じゃないが、ないよりはマシだ」という一言はこのことに響き合い、終盤でキルブルーが問う言葉も、“正義”が必然的にはらむ多面性――明かされる真実は誰にとっても不都合かもしれない――をはっきりと言い当てた。


 名作『グラン・トリノ』(08)や『許されざる者』(92)などをはじめ、イーストウッドは数々の映画で「罪」や「過去」をテーマとして描いており、近作『リチャード・ジュエル』(19)や『 ハドソン川の奇跡』(16)では「疑念」や「裁き」を前面に押し出した。『陪審員2番』はそれらの要素がみごとに調和した集大成であり、また、時代の空気とも切り結んだ一作だ。



『陪審員2番』© 2024 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. Max and related elements are property of Home Box Office, Inc.


 昨今、世の中では正当な手続きや根拠がないまま、感情的に“人が人を裁く”出来事が日常的に繰り返されている。マスメディアやYouTuber、インフルエンサーなどが、己の利益や承認のためにセンセーショナルな物語と話題を提供し、その先入観ありきで、事実や根拠を検証する手段さえもたない人々が、なんの責任も持たないまま攻撃や中傷を重ねてゆく、いわば“SNS私刑時代”だ。


 そんな時代に、本作はひとつの裁判を描くことで、人が人を裁くことの困難と、正当なプロセスの重要性を突きつける。人を裁くことには、相応の責任と、その結果を受け入れる覚悟が必要なのだと訴える。


 “いい人”であるケンプの闇と動揺をわずかな挙動と表情で伝えるニコラス・ホルト、イーストウッド&エイブラムズの精神を二分したかのような検事役トニ・コレットと弁護士役クリス・メッシーナの演技は、それ自体が映画のすべてを語りきらんとするかのよう。心地よい編集リズムやラストシーンの切れ味に至るまで、達人による華麗な演出も堪能してほしい。


[参考文献]

Juror #2 Screenwriter Jonathan A. Abrams on How His First Produced Screenplay Became a Clint Eastwood Movie

Jonathan Abrams Wrote ‘Juror #2’ in the Tradition of Clint Eastwood’s ‘Mystic River’ — Then Eastwood Agreed to Direct It



文:稲垣貴俊

ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。



今すぐ観る


作品情報を見る



『陪審員2番』

U-NEXTにて独占配信中

© 2024 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. Max and related elements are property of Home Box Office, Inc.

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 陪審員2番
  4. 『陪審員2番』SNS私刑時代にクリント・イーストウッドが正義を問う