幕を開ける大がかりな陰謀
火星探査有人宇宙船カプリコン・1号が打ち上げられようとするその瞬間、大型ロケットの筒先に位置する司令船のハッチが外から不意に開けられる。見知らぬ男の指示で乗務員の3人は連れ出されるが、ロケットは無人のまま発射されてしまい、副大統領を始めとするギャラリーは打ち上げの成功を喜んでいる――。大がかりな陰謀はここから幕を開ける。
宇宙飛行士たちが連行されたのは、閉鎖された空軍基地。巨大な倉庫には、火星のセットと共に着陸船が置かれ、照明も周到に配置されており、さながら映画のセットである。副調整室も完備されたここで着陸時の中継を行い、火星の地表に飛行士が降り立つ瞬間は、重力を考慮して映像にスローモーションをかけるという仕掛けだ。
『カプリコン・1』(C)Capricorn One Associates 1978
大統領もNASAの大部分の職員も知らない、政府中枢とNASA上層部だけで遂行された全人類を相手にしたペテンの始まりである。カプリコン・1号の生命維持装置に問題が起きたために、打ち上げを延期すると、宇宙開発に消極的な大統領によって、有人火星探査が打ち切られる可能性があるので、その場しのぎをしなければならないという理由が明かされるが、結局、この大がかりな謀略はまんまと成功し、あとは無人の司令船が大気圏に突入して海に着水したところへ飛行士たちが乗り込んで帰還したかのように見せかけるところまで順調に進む。ところが、大気圏突入時に司令船の外壁シールドが剥がれてしまい、高熱によって司令船は消失。つまり乗務員は全員死亡――したことになってしまう。この予期せぬトラブルによって、宇宙飛行士たちの存在を抹殺せねばならなくなる。
ここまでが前半である。以降は、組織から追われる宇宙飛行士が逃げおおせるかの逃走劇となる。〈史上最大のペテン〉の秀逸なアイデアに比べると、地味な展開にも思えるが、本作を傑作たらしめているのは、この後半パートにあると言って良い。