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『ジュラシック・パーク』優れた映像言語を持つスピルバーグの「恐怖演出」ショーケース

『ジュラシック・パーク』優れた映像言語を持つスピルバーグの「恐怖演出」ショーケース

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 数多くの名作やメガヒット作を手がけ、歴史上もっとも賞賛を与えられている映画監督スティーブン・スピルバーグ。近年は『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(18)のような社会派作品に心血を注いだかと思えば、VR(バーチャル・リアリティ)というオルタナティブ空間に言及した娯楽作『レディ・プレイヤー1』(18)を間を置かずに発表するなど、70歳をすぎてもジャンルレスな姿勢をつらぬき、現代劇からSFまで難なくこなす表現幅の広さに驚かされる。  


 だがスピルバーグという映像作家の真髄は、視覚的な伝達を通して観る者をビクッ!とさせ、劇場を瞬時に凍てつかせる「恐怖演出」にあるだろう。キャリアの初期作『ジョーズ』(75)そして『未知との遭遇』(77)では、そんな恐怖演出が冴えに冴えた形で劇中に用いられ、氏のブレイクスルーの助けとなってきた。とにかく、観客に怖さを与えるための能力が、世界の同業者の中でもトップレベルといっていい。


恐竜出現までの前触れと、サイズの対比が生み出す緊張感



 1993年製作の『ジュラシック・パーク』は、そんな恐怖演出のショーケースとして、最も多くの者の目に触れた作品だろう。特に肉食恐竜T.レックス(ティラノサウルス・レックス)の登場シークエンスは、化石でしか知らない古代生物にもかかわらず、思わず身の危険を覚えてしまうほどの緊張した視覚体験を観客にもたらしている。



(C)1993 Universal Studios and Amblin Entertainmant,Inc. All Rights Reserved 


 停電の影響によってサファリカーがT.レックスの生息エリアで止まり、立ち往生するグラント博士(サム・ニール)たち。やがて振動とともに車中のグラスの水に波紋が広がり、ふと暗視ゴークルで外を見たティモシー少年(ジョセフ・マゼロ)が、餌として鎖につながれていたヤギがいないことに気づく。そして次の瞬間、食いちぎられたヤギの脚がサンルーフ(天窓)を直撃! カメラはゆっくりと車内からサンルーフの上へとアップし、不規則に放たれていた雷光がスポットライトのごとく、ヤギを丸呑みする異形の存在を浮かび上がらせる。


 そこから映画は、フェンスを踏み越えて咆哮するT.レックスの全身ショットを映し出し、観客の驚愕は最高潮に達するのだ。CGでクリエイトされた恐竜の質感がリアルだから怖いのではない。全体像を披露するまでの細かな演出が、おのずと対象物の恐ろしさを倍加させるのである。



(C)1993 Universal Studios and Amblin Entertainmant,Inc. All Rights Reserved 


 しかもスピルバーグの恐怖演出の作法は、それだけにとどまらない。雨中や窓ごしに被写体を捉えた不鮮明な映像を交え、観る者の焦燥や不安を巧みにあおる。またT.レックスの巨大な手脚や眼の一部などを登場人物と同一フレームに収めたり、人がT.レックスを見上げる仰角や、逆に見下ろす俯角の画を反復させるなど、常に人間と巨大生物との対比を観る者に印象づけていく。こうした細心の芸当を合わせ技のように展開させながら、恐怖の対象となる存在をいきなり出現させずとも、その周辺情報だけで観る者の心理に恐怖の根を植え付けていくのだ。



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