(C) 1993 Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. All Rights Reserved
『ジュラシック・パーク』優れた映像言語を持つスピルバーグの「恐怖演出」ショーケース
2018.08.24
スピルバーグ自身が定義する“恐怖”とは?
そもそもスピルバーグの、恐怖の感情をコントロールする術は何が発露となっているのか? 2017年10月にアメリカで公開されたドキュメンタリー『スピルバーグ!』では、子ども時代、恐怖や不安に人一倍敏感な性格であったことを起源とする言及がなされていた。
だが、こうした形で当人の発言から根拠を求めるのならば、スピルバーグはもっと端的に、自身の恐怖演出の定義を語っている。
「世の中には(サム・)ペキンパーのような、生々しいのが好きな監督もいる。ウィリアム・ホールデンが撃たれると、弾が貫通するところまで見せる。しかし、僕の暴力はもっと心理的なものだ。僕にとってエキサイティングな瞬間とは、引き金が引かれる寸前にある。撃つ瞬間そのものよりも、はるかに恐怖がある」(1982「アメリカン・ニューシネマの息子たち ローリング・ストーンインタビュー集」ロッキング・オン社)
先に挙げた幼少時代の実体験もさることながら、純粋な表現欲からくる恐怖への追求を語ったこの言葉は、やはり稀代の天才監督としてしっくりくる。
とはいえ、そんなスピルバーグの得意技も、ときとして題材に見合わぬ狂ったバランス感覚をもって映画に登場することがある。氏の社会派作品の嚆矢となった『カラーパープル』(85)では、セリー(ウーピー・ゴールドバーグ)がDV夫の“ミスター”ことアルバート(ダニー・グローバー)を剃毛するさいの、カミソリで喉を掻っ切るかのような緊張場面の連続はホラー映画も顔負けだし、続く『太陽の帝国』(87)でも、日本軍の上海侵攻シークエンスは群衆パニック描写がすさまじいまでの緊迫感を放ち、その様相はまるで巨大モンスター襲撃でも見るかのようだ。こうした加虐的なアプローチの行き着く果てが『プライベート・ライアン』(98)の、観客を戦場に投げ込む迫真性へと至っていくのだ。と、こう説いても決して穿ちすぎではない。
ちなみに『ジュラシック・パーク』で、T.レックスがジェナーロ弁護士(マーティン・フェレロ)を頭からガブリと食うショットがいちばん衝撃度が高い、という人もいるだろう。しかしあれは恐怖演出というより残酷描写の域に踏み込むので、これについて語るのは別の機会に譲りたい。
『ジュラシック・パーク』(C)1993 Universal Studios and Amblin Entertainmant,Inc. All Rights Reserved
映画はデジタル技術の発達によって死角領域がなくなり、現状、どんなものでも描写が可能となった。しかし、そのため映画体験が受動的なものになってしまったことも否めない。しかし、演出を凝らして観る者の心理を巧みに操り、感情を自在にコントロールするスピルバーグがいる限り ファンとしては映画というメディアの可能性を信じることができるのだ。
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。Twitter: @dolly_ozaki
『ジュラシック・パーク』
4K ULTRA HD + Blu-rayセット:5,990円+税
Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2018年7月の情報です。
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