
©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』香港アクション&ノスタルジーの向こう側へ
2025.01.20
「香港」と「香港映画」へのメッセージ
監督のソイ・チェンは、『マッド・フェイト』(23)や『リンボ』(21)といったハードなスリラー映画で評価されるほか、『ドラゴン×マッハ!』(15)などでシリアスな物語に鮮やかな活劇要素を盛り込んだ名手。本作は痛快なアクション大作でありながら、「九龍城砦」という舞台がはらむ切実な物語を通じて、香港や香港映画へのメッセージを静かに語っている。
チェン監督が繰り返し強調するのは、九龍城砦が清濁併せ呑む“生活”の空間だったという歴史的事実だ。そこに住む人々には誰もが事情を抱えており、彼らは決して裕福とは言えず、城砦の一角では賭博や売春、麻薬の取引が日常的に行われている。住民が命を落とせば、自分たちの力では葬れないため、やむなく遺体を城砦の外に出して警察に通報するしかない。そこに描かれるのは、きれいごとでは済まされない生活の一側面だ。
むろん、生活には「光」と「陰」の両方が存在する。この映画には、そんな九龍城砦にも確かにあった、住民たちによる日々の営みがはっきりと刻み込まれている。料理や散髪、食堂のテレビ、あまりにも日常的すぎて取るに足りないやり取り。ディテール豊かな九龍城砦のセットは、単なるアクションの装置ではなく、描かれる“生活”に説得力を与える下地なのだ。龍捲風が陳洛軍にごちそうする叉焼飯[チャーシューファン]のおいしそうなことといったら!
ただし、この映画は「あの時代はよかったな」という“香港ノスタルジー”には安易に耽溺しない。香港の中国返還が決定したあとの1993年、香港政府は、九龍城砦から住民を強制退去させ、城砦を完全に撤去した――。香港史の転換点を象徴する出来事に言及することで、本作は新旧香港俳優の共演がひそやかに示唆する“映画外の物語”=世代交代の構造とともに、香港と香港映画界のシリアスな変化と危機をあぶりだすのである。
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.
「何もかもなくなる、数年後には城砦も消える」「それでもいい、変わらないものもあるはずだ」。中国の政治的圧力が増すなか、香港政府が映画の検閲を実施し、香港映画の衰退が業界内外で危惧される今、観客たちはこの映画から、まさしく激動のさなかにある香港/香港映画界の姿と、そこに込められた(ぎりぎりの)前向きなメッセージを読み取ることになるだろう。その姿勢を単なる空元気で終わらせないのが、映画の最後まで貫徹された“日々の営み”の描写だ。人間のささやかな生活には、そのしぶとい生き様には、したたかな知恵と力が宿っている――。
ポップで、ド派手で、楽しくて、コミカルで、ちょっぴりダーク。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は、そうした娯楽性の先で、“香港ノスタルジー”の向こう側にあるリアルな痛みと熱さを垣間見せる。そうした時代との呼応があったからこそ、本作は香港で有数のヒット作になったのではないか。
文:稲垣貴俊
ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。
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『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
新宿バルト9ほか全国ロードショー中
配給:クロックワークス
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