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『リアル・ペイン~心の旅~』「ヘイ!ベンジー」と呼びかける声、正当な痛みとはなにか?

©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

『リアル・ペイン~心の旅~』「ヘイ!ベンジー」と呼びかける声、正当な痛みとはなにか?

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『リアル・ペイン~心の旅~』あらすじ

ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとベンジーは、亡くなった最愛の祖母の遺言で、ポーランドでのツアー旅行に参加する。従兄弟同士でありながら正反対の性格な二人は、時に騒動を起こしながらも、ツアーに参加したユニークな人々との交流、そして祖母に縁あるポーランドの地を巡る中で、40代を迎えた彼ら自身の“生きるシンドさ”に向き合う力を得ていく。


Index


ヘイ!ベンジー



 最近亡くなった祖母のルーツを訪ねるために、いとこ同士の二人が旅に出る。ポーランドへの旅。ホロコーストの生き残りであり、移民としてアメリカへ渡った祖母。デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)とベンジー(キーラン・カルキン)は、“第3世代”のユダヤ系アメリカ人にあたる。子供の頃よく遊んでいた二人は、大人になり疎遠になっていた。


 ポーランドに出発する空港のロビーで二人は久しぶりに再会する。ベンジーの留守電にしつこいくらいメッセージを残すデヴィッドは、何度も「ヘイ!ベンジー」と親しみを込めて呼びかける。しかしデヴィッドの「ヘイ!ベンジー」という軽快な呼びかけは、どこか相手の安否を心配するような声の色を滲ませている。明るく楽しいキャラクターのベンジーは人々を楽しませ、早口のグルーヴで魅了させるが、同時にその予測不能性は人々の不快感の要因になることもある。


 妖精のようなベンジー。周囲の空気に流されず率直な言葉でコミュニケーションをとるベンジーは、誤解されやすい繊細なキャラクターだ。ベンジーのことを真に理解しているのは、この世界にデヴィッドただ一人なのだろう。そして生前の祖母は、ベンジーのことを家族の中でもっとも気にかけてくれた人物でもある。



『リアル・ペイン〜心の旅〜』©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.


 “ホロコースト・ツアー(ランチ付き)”。ポーランドの電車内で特等席に座って移動するツアー一行。ベンジーは自分たちが置かれている特権的な状況への違和感を周囲に怒鳴り散らす。このふざけた状況をどうして疑問に思わないのか?と。『リアル・ペイン~心の旅~』(24)は、現代に生きる者の特権的な安全性を疑っている。しかしこの映画は単純な二元論の対立や皮肉を描くことに収まってはいない。“歩く矛盾”のようなベンジー。特等席に座ることと普通席に座ることの間に、果たしてどれだけ“誠実さ”の違いがあるだろうか?少なくとも問題の根本がそこにあるようには思えない。


 ユダヤ系アメリカ人3世としての矛盾。現代を生きる者の矛盾。ジェシー・アイゼンバーグ監督は、悲しみの歴史、自分たちの祖先の過去へアクセスすることの不可能性とほんの僅かな可能性、祈りのような望みの両方を描いている。その意味で本作は、ユダヤ系アメリカ人3世として生まれたジェシー・アイゼンバーグによる、“関心領域”が描かれた作品ということができる。とてもパーソナルな作品だ。





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