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『僕らの世界が交わるまで』アイ・ワナ・ビー・アドアード、憧れられたい

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『僕らの世界が交わるまで』アイ・ワナ・ビー・アドアード、憧れられたい

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『僕らの世界が交わるまで』あらすじ

DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する母・エヴリンと、ネットのライブ配信で人気の高校生ジギー。社会奉仕に身を捧げる母親と、自分のフォロワーのことしか頭にないZ世代の息子は、いまやお互いのことが分かり合えない。しかし彼らの日常にちょっとした変化が訪れる。それは、各々ないものねだりの相手に惹かれ、空回りの迷走を続ける"親子そっくり"の姿だった……!


Index


承認欲求



 郊外の住宅街。ティーン・エイジャーのジギー(フィン・ウォルフハード)は、いつもギターケースを背負っている。SNSの世界では二万人以上のフォロワーがいるジギー・カッツ。ティーンの痛みを歌ったジギーが奏でるフォークソングは、海の向こうにいるアジアやアフリカの同世代のティーンに大人気だ。ジギーは自分の名前の頭文字「Z」と「K」のイニシャルが刺繍されたニットキャップを頻繁に被っている。何かの承認欲求であるかのように。ジギーには自分のグッズで商売をしていく野心があるようだ。しかしジギーが通う学校で、彼は無名に等しい。ライブ配信のときの自信に溢れる少年の姿はそこにはない。自分のことを「天才」だと褒めてくれるただ一人の友人を除き、同級生との交流はほとんどないように見える。世界を股にかける“SNSのカリスマ”は、リアルな世界ではまったく尊敬されていない。


 ジェシー・アイゼンバーグの初長編作品『僕らの世界が交わるまで』(22)の少年ジギーには、ジェシー・アイゼンバーグがこれまでに演じてきたキャラクターの面影がある。『アドベンチャーランドへようこそ』(09)や代表作『ソーシャル・ネットワーク』(10)の冒頭で、自信満々に振る舞いながらもあっけなく恋人に愛想をつかされてしまう青年の姿。あるいは『イカとクジラ』(05)でピンクフロイドの曲を自作の曲として披露して、ものの見事に盗作が発覚してしまう痛々しいティーンの姿。俳優ジェシー・アイゼンバーグは、あきらかに大きな欠点を抱えたクセのある若者を演じてきた。しかも自身の欠点に気づかないふりをしているのか、むしろ傲慢さを自分だけの長所、クールなところだと捉えているような尊大な態度の若者だ。そして演じるキャラクターの傲慢さが崩壊を迫られるとき、ジェシー・アイゼンバーグはスクリーンに無二の輝きを放っていた。



『僕らの世界が交わるまで』© 2022 SAVING THE WORLD LLC. All Rights Reserved.



君になりたい



 決して本人が望んでいたイメージではなかったではあろうが、2010年前後の作品におけるジェシー・アイゼンバーグは、新世代のアンチ・ヒーローであり、当時の若者のアイコンのような雰囲気、カリスマ性さえ纏っていた。『僕らの世界が交わるまで』でジギーを演じる素晴らしい才能を持ったZ世代のフィン・ウォルフハードには、かつてジェシー・アイゼンバーグが演じたキャラクターのスピリットが確実に受け継がれている。


 “SNSのカリスマ”がリアルな世界では不人気な学生であるという落差、その失望と苛立ち、ハッタリの脆さ、どうしようもなさをフィン・ウォルフハードは繊細に演じている。私たち観客はジギーの浅はかな言動にうんざりさせられつつ、少年の心の動き、激しさを自分のことのように汲み取ることができる。ジギーは政治的な話題に情熱を注ぐ同級生の少女リラ(アリーシャ・ボー)の知性、話し方に魅せられる。君のようになりたいと本人に向かって言い放つ。フィン・ウォルフハードの大きな瞳には、自分が彼女に憧れるように、人々から“憧れられたい”と願う少年の痛みが宿っている。


 実際にプロのミュージシャンでもあるフィン・ウォルフハードの奏でる、ティーンの痛みを歌ったフォークソングは、プロフェッショナルすぎず、かつアマチュアすぎない絶妙なラインに対応している。ジギーの部屋を生配信ライブ用の“スタジオ”にする美術と撮影が素晴らしい。配信ライブを家族に邪魔されないよう、ジギーは“収録中”を示す赤いランプを壁に取り付ける。ユーモアに溢れるアイディアだが、巨大な赤いランプの点灯という“拒絶”は、十代の痛みとしてどこかノスタルジックに胸に迫るものがある。





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