(c)2005 Squid and Whale,Inc.Todos os Direibs Reservados.
思春期の機微を捉えた『イカとクジラ』が、自伝を超えたリアルな感情のドラマに到達するまで
『イカとクジラ』あらすじ
1986年ブルックリン。元人気作家で教え子と同棲中の父親と、今人気作家で恋愛遍歴を息子たちに語る母親。両親の離婚からくるストレスをビールで解消する弟と、コンテストでピンク・フロイドを真似て優勝した僕。生きることに不器用な家族4人をちょっと切なく、おかしな物語。
Index
新たな映画づくりの段階へ突入した俊英監督
『マリッジ・ストーリー』(19)の快進撃により、今やノア・バームバックは、69年、70年生まれの錚々たる天才監督たち(ウェス・アンダーソン、スパイク・ジョーンズ、クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソン etc…)の中でも独自の輝きと風格を増した感がある。
もともと、20代にして『彼女と君のいた場所』(95)という作品で長編監督デビューを果たしたノア。それはとても幸先の良いスタートに思えたが、それから"Mr Jealousy"や"Highball"を手掛けて以降、彼は8年にわたって新作を撮ることができなかった。
『イカとクジラ』予告
その間、無二の親友となったウェス・アンダーソンの作品『ライフ・アクアティック』(04)にて共同脚本を手掛けたことでも名が知られるが、翌年、長きに渡るブランクを経て、満を辞して制作・公開されたバームバックの監督作が同じく「海」を思わせるタイトルだったのは興味深いポイントだ。
人類は海から生まれ、海へ帰るとよく言われる。実際のところ『イカとクジラ』(05)はそんな壮大なテーマ性を孕んだものではないにせよ、バームバックにとってその後のキャリアを決定づける”新たな誕生”となったことだけは確かである。
きっとこの時期、彼は30代周辺となった自分というものを痛いほど自覚していたはず。その生々しい想いを映画へと昇華させるために、どれくらい汗をかき、自分を追い込み、身を削り、血を流すことが出来るのか。本作『イカとクジラ』は、その映画作家としての覚悟が垣間見えた作品と言えよう。