(c)2005 Squid and Whale,Inc.Todos os Direibs Reservados.
思春期の機微を捉えた『イカとクジラ』が、自伝を超えたリアルな感情のドラマに到達するまで
親と子供、双方の立場に立って内面を探る
さらに脚本作りはもうひとひねりする。自身の少年期に立ち返って執筆を進める上で、今度はそれに飽き足らず、バームバックは自ずと”親の内面”にも想いを馳せるようになっていく。
両親はあの時どういう気持ちで離婚に関する諸問題と向き合っていたのか。はたまた彼らのプライベートはどのようなものだったのか。大人同士でどのような会話を交わしていたのか。イマジネーションは尽きない。それは彼の中でずっと一方通行だった目線が満を持して照り返し、相互作用を及ぼし始めた瞬間だった。
物語のメインとなる家族4人はそれぞれに、日常および領域を持っている。それらを個々に描いたり、衝突させたり、向き合わせたりすることで、映画の可能性は立体的に広がっていく。こうしたレベルへ到達できたことは、まさに映画作家としての大いなる成長と言えよう。
『イカとクジラ』(c)2005 Squid and Whale,Inc.Todos os Direibs Reservados.
聞くところによると、過去二作の監督作の脚本を(書き手として大先輩でもある)両親に見せていた彼も、本作ではいっさい見せなかったとか。
その上、様々な面で登場人物の内面を赤裸々にさらけ出しつつも、目指したのはあくまで「見るに耐える映画」。見るに耐えない事実はあえて描かずに、あくまで作品としてのまとまり、面白さ、芸術性を優先させることを心がけたという。