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『ファーストキス 1ST KISS』時を駆け抜け、時をカンナで磨き上げるラブストーリー ※注!ネタバレ含みます

©2025「1ST KISS」製作委員会

『ファーストキス 1ST KISS』時を駆け抜け、時をカンナで磨き上げるラブストーリー ※注!ネタバレ含みます

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坂元裕二的な時間感覚



 映画の説明によれば、時間は一直線に流れていくものではなく、ミルフィーユ状に折り重なっているのだという。駈が研究している古生物学で言うならば、地層のように時間が重なっているのだ。そう考えると、カンナは15年前に戻るというよりも、その場所に移動するといった方が正しい。それはSF設定というよりも、坂元裕二的な時間感覚といえる。


 『大豆田とわ子と三人の元夫』の第7話で、こんな場面があった。30年来の親友を病気で失ったとわ子に対して、オダギリジョー演じる男性がこんなセリフを語りかけるのだ。


 「過去とか、未来とか、現在とか、そういうのって、どっかの誰かが勝手に決めたことだと思うんです。時間って別に過ぎてゆくものじゃなくて、場所っていうか、別のところにあるもんだと思うんです。人間は、現在だけを生きてるんじゃない」


 そして彼はこう続ける。


 「あなたが笑った彼女を見たことがあるなら、今も笑っているし、5歳のあなたと5歳の彼女は今も手を繋いでいて…今からだって、いつだって、気持ちを伝えることができる」


 我々が住んでいる世界は、線ではなく無数の点で繋がっている。「もうあの頃には戻れない」ではなく、「いつだってあの頃に戻ることができる」。カンナが2.5次元舞台の美術デザインをしているという設定は、2つの次元を行き来するという暗喩のようにも思えてくる。



『ファーストキス 1ST KISS』©2025「1ST KISS」製作委員会


 この映画のタイトルは、『ファーストキス 1ST KISS』。なぜ「ファーストキス」と「1ST KISS」が二重に冠されているのだろう。それは、①45歳のカンナが過去に戻って再び恋をした駈とのキスと、②29歳のカンナが駈と出会って恋に落ちたキスの2つを示しているのではないか。我々がスクリーンで目撃したのは①のキス。それは、「いつだってあの頃に戻ることができる」ことを示している。


 この映画のプロデューサーを務めた山田兼司は、『怪物』(23)で坂元裕二と仕事をしたことのある間柄だった。そして「また一本、映画を作らせてもらえませんか」と依頼し、「人生のいろいろなタイミングで観返すような作品」を目指して企画を進めていったのだという(*)。そのアンサーとして坂元裕二が用意したのは、「人生のいろいろなタイミングで人生をリプレイすることができる」物語。それは、彼の独特な時間感覚によってもたらされている。





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