2025.02.17
最長不倒距離にジャンプする、主人公たちの魅力
「恋は盲目っていうじゃないですか。結婚は逆に解像度があがります。見逃していた欠点が4Kで見えてきます」
「“二人でパン屋を始めましょう”という概念は、“結婚しましょう”という概念とほぼ一致します」
「好きなところを発見しあうのが恋愛。嫌いなところを見つけ合うのが結婚」
「恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります」
「役に立つ話をされるより、役に立たない話をされるほうがまし」
坂元裕二の作品にはいつだってパンチラインが炸裂しているが、この映画も噛み締めたくなるようなセリフのオンパレード。そして主演を務める松たか子と松村北斗の二人のチャーミングな演技が、映画をさらにふくよかなものにしている。いや、二人が画面に佇んでいるだけで幸せな気持ちになる、と言うべきか。古生物の話をすると止まらなくなってしまう松村北斗のキュートな破壊力も相当なものだが、松たか子にいたっては天下無双の可愛らしさだ。
かき氷柄のダサいTシャツを着る松たか子。動物が嫌いなのに大量の犬に囲まれてキャーキャー叫ぶ松たか子。駈の足を踏んづける松たか子。必殺ウインクをカマしたら「ドライアイですか」と言われてしまう松たか子。かき氷屋の行列に並ぶ後ろの女性にガミガミ文句を言う場面も、普通なら単に口うるさいだけになってしまうものだが、なぜか可愛げがあるのはもはや持って生まれた人間力というほかない。
『ファーストキス 1ST KISS』©2025「1ST KISS」製作委員会
長い時間をかけてゆっくりとキャラクターを掘り下げていく連続ドラマとは異なり、映画の場合は2時間少々で主人公たちの魅力を最長不倒距離にまでジャンプさせなくてはいけない。物語の構造としても、キャラクターではなくプロットに重点が置かれがちだ。その点で、松たか子と松村北斗は近年の日本映画でも稀に見るチャーミングなカップルといえるだろう。
最後にもうひとつ。坂元裕二脚本の特徴のひとつとして、登場人物が個性的な名前であることが挙げられる。松たか子出演作品に絞っていえば、『カルテット』の巻真紀(まき・まき)、『スイッチ』の蔦谷円(つたや・まどか)、『大豆田とわ子と三人の元夫』の大豆田とわ子。そして本作『ファーストキス 1ST KISS』は、硯カンナと硯駈だ。
道具としての硯(すずり)には、丘、海、縁と呼ばれる場所があり、それ自体がひとつの世界を表している。つまり彼女は、世界の未来を変えようと奔走するのだ。そして何度も鉋(かんな)を使って削るように、幾度ともなくタイムリープを繰り返す。彼女/彼の人物造形は、おそらく名前を与えられた時点で完成している。この映画は、時を駆け抜け、時をカンナで磨き上げるラブストーリーなのだから。
間違いなく『ファーストキス 1ST KISS』は、2025年を代表する恋愛映画だ。
(*)https://www.toho.co.jp/movie/news/1stkiss-movie_250113
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
『ファーストキス 1ST KISS』を今すぐ予約する↓
『ファーストキス 1ST KISS』
大ヒット上映中
配給:東宝
©2025「1ST KISS」製作委員会